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アライアンスブランド『KOYORI』について

今年の6月、Milan Design Weekの期間中に、ミラノ・サローネの本会場に次いでミラノ市内で最も賑わいを見せるデザインミュージアム”Triennale Milano”において、1つの全く新しい日本発のグローバル家具ブランドが発表されました。名前を『KOYORI』といいます。

Photography: ALBERTO PARISE

私が2009年に、それまで勤めていた商社からマルニ木工に籍を移した時、1つの大きな夢を持っていました。それは、”たった1社でもいいから、日本の家具メーカーで欧米の家具ブランド達にも太刀打ち出来るブランドを生み出したい”というものでした。マルニ木工で立ち上げた海外事業は10年かけて成長を続けていき、現在では世界30ヶ国でブランドが展開されるまでに成長を遂げ、2016年には米国でApple Parkプロジェクトという巨大案件に従事するなど、世界中の著名建築設計事務所と協働出来るまでの存在になりました。そこで、事業の更なる成長と組織の専門性向上、また経営判断の迅速化を目指し、2018年4月にこの海外事業の部門をマルニ木工から分けて分社化し、株式会社マルニグローバルブランディング(以下、MGB)を設立。代表取締役に就任し、今に至ります。

Photography: ALBERTO PARISE

この様にマルニ木工は海外市場において理想的な展開が実現出来たと感じていましたが、しかし同時に残念に思っていた事もありました。それは、日本にはまだまだ多くの優れた家具メーカーさんがいらっしゃるにも拘らず、私が加わる前の当時のマルニ木工が抱えていた問題と同様の困難に阻まれて、欧米市場への展開を断念されたり、海外事業に注力出来ずにいらっしゃるメーカーさんが少なくない事でした。海外事業を展開するには、言葉の問題もそうですが、ブランディングやマーケティングの戦術をはじめ、ロジスティック(貿易)の専門知識、一貫性のあるデザイン戦略など、様々に必要なノウハウがあります。商社で身につけたこれらのノウハウをマルニ木工の海外展開に活用して、これが有効であることは検証が出来ていたので、今度はこの知見を日本の家具製造業界自体の為に活かしたいと考えるに至りました。

Photography: ALBERTO PARISE

先程日本にはまだ多くの優れた家具メーカーさんがいらっしゃると申し上げましたが、その中でも本当に卓越した職人技やモノづくりの力を持つ、最高レベルの家具メーカーさんが数社いらっしゃいます。それぞれのメーカーさんは異なる工場特性を持っていて、ある会社は無垢材の扱いが得意だったり、ある会社は成型合板の扱いが得意だったり。ある会社はソファづくりに専門性を有していて、ある会社は箱物が得意など、それぞれ工場特性が分かれています。もしもこれらの、それぞれの工場特性において最高レベルの家具メーカーさんが協力しあい、そこに海外展開に必要なノウハウや世界的なデザイナーと多くの交流をもつ存在が加わって1つの大きなアライアンスブランドを生み出したら、どのような化学変化が生まれるだろう? そう考えて、この度我々MGBが日本を代表する家具メーカーさん達と協業を始めて生み出したのが、グローバルアライアンスブランド『KOYORI』です。

Photography: ALBERTO PARISE

1つ明確にお伝えしなければならないのは、マルニ木工自体はこのKOYORI事業に一切タッチしていません。KOYORIの存在が広がりはじめるとマルニ木工本社に問い合わせが来ることが続き、少し大変だったそうですので、ここではしっかりと明言させて頂きます。KOYORI事業はあくまでMGBの単独事業であり、MGBと”マルニ木工以外の家具メーカー数社”と共同で始めた取り組みとなります。マルニ木工がKOYORIに加わっていない理由はとても明快で、マルニ木工の世界観が既に海外市場において確立・定着しているからです。深澤直人さんの世界観がそのままMARUNIの世界観として定着していますので、そこの純粋性は保守すべきと考えました。(これをお読みなったメディアの皆さんでKOYORIに関するお問合せを頂く場合は、私、若しくは我々MGB、そしてKOYORIの代表メール info@koyori-jp.com までご連絡を頂ければと思います)

Photography: ALBERTO PARISE

KOYORIの立ち上げはパンデミック前夜の2019年秋に始まりました。KOYORIがこれから継続的にコラボしていくデザイナーとして、2組のデザイナーを選定。1組目はRonan and Erwan Bouroullec(ロナン&エルワン・ブルレック)、そして2組目はGamFratesi(ガムフラテージ)です。2組を選んだ理由は、最新のCasa BRUTUSさんのウェブ記事でも語らせて頂きました。

KOYORIの準備を始めようとした矢先、パンデミックが発生した訳です。正直一瞬は目の前が真っ暗になる感覚を受けましたが、いや、待てよ・・・と思いました。コロナ禍の様な未曾有の事態に見舞われた事で世界は停滞してしまう。しかし確実に言えることは、2年かかろうと3年かかろうと、このコロナは必ず終息を迎える。その時に粛々と新たな事業に対して準備を重ねてきた組織と、何もせずに悩んで立ち止まり続ける組織とで、後々巨大な差が生まれるのではなかろうか?そもそも世界中の人間が足止めをくって、自分自身も海外出張を休止し日本に居続けなければならないならば、逆にその期間は落ち着いて新規事業にじっくり取り組む事が出来るという事ではないだろうか?と考えた訳です。KOYORIで協業することになった各アライアンスメーカーの方々からも、KOYORIの事業案を持ちかけた時に「何故今なのですか?こんな状況の時に??」と問われましたが、「いや、今だからこそでしょう!きっと長くても3年程度で終息するコロナです。この間着々と飛翔する準備を重ねてきた存在と、同じあいだ悩んで迷って立ち止まり続けた存在とで、コロナが明けた時にどれほどの差が生まれると思われますか?今から恐らく長く不透明な時期が続くと思います。そんな暗闇の中でKOYORIの様な1筋の光が見えているのと見えていないので、これに関わる社員の皆さんの心持ちも変わってくるのではないでしょうか?」という話をさせて頂いたところ、各社の役員の皆さんも理解してくださり、海のものとも山のものともという状態だったKOYORIという新規事業に全員で漕ぎ出したというのが、この事業のはじまりです。

Photography: ALBERTO PARISE

KOYORIの特殊性は、特定の地域に限定されたコラボ事業ではなく、日本全国からトップレベルのメーカーさんに参画頂く構想になっている事もその1つですが、もう1つ、これまでのどの家具メーカーさんの取り組みとも決定的に異なるビジネスモデルを組んでいます。それは、”海外に向けてはKOYORIの名前でブランド展開をしていくが、国内においてはそれぞれ各社さんが開発した世界レベルのデザイナーのプロダクトを、自社の看板の元で販売して頂くことにしている”という点です。これによって、KOYORIに参加するメーカーさんは、KOYORIが招聘するデザイナーのプロダクトを、開発後には日本国内において自社のプロダクトとして販売する事ができる仕組みになっています。海外のデザイナーとの協業は、ただでさえ言葉の問題で困難だったり、海外の生活様式や市場の事情を理解できていないと明後日の方向の商品開発になってしまうリスクがある訳ですが、その部分のサポートを全てMGBが行います。自社の名前こそ出ないけれども、自社のモノづくりの力をKOYORIとして世界で試してみる事ができる。(勿論、それで売上が発生する)そうして開発した世界トップレベルのデザイナーのプロダクトを、日本国内では自社のブランド価値を高めるコレクションとして、自社名で販売する事ができる。これが、KOYORIの最大の特殊性になっています。

Photography: ALBERTO PARISE

KOYORIは初年度についてはまず3社の協業でスタートしました。5つの木製椅子を発表しましたが、既に来年の発表アイテムも存在しています。我々はもう2024年を見つめていますが、同時進行で新たなメーカーさんとの協業の可能性を模索しようとしています。ソファやシェルフなどの商品開発を念頭において、これから様々なメーカーさんとお話が出来ればと思っています。

Photography: ALBERTO PARISE

更に、KOYORIが目指すのは家具ブランドとしての成長に収まらず、我々はこのブランドをライフスタイルブランドとして発展させる事ができないかと考えています。日本には家具だけでなく、美しいインテリア雑貨や小物がたくさん存在します。ラグ、照明、テキスタイル、焼き物、文房具などなど、世界中から愛されている美しい小物達です。これらの工房さんやメーカーさんにも、近い将来KOYORIに参画して頂いて、一つの美しいライフスタイルを表現出来る様になりたいと考えています。が、それは家具が落ち着いてからの話です。

Photography: ALBERTO PARISE

さて、長々とお話しましたが、そんなKOYORIがいよいよ日本ローンチを迎えます。六本木のAXIS Galleryさんにおいて、10月28日(金)~10月30日(日)までKOYORI JAPAN LAUNCH EXHIBITIONを開催し、ミラノのトリエンナーレでGamFratesiがデザインしたインスタレーションを踏襲する装いで5脚の椅子とプロトタイプのテーブル達を発表させて頂きます。皆様、東京のDesign Week期間中でお忙しいとは思いますが、是非ともお誘い合わせの上、ご来場頂ければと思います。これより皆様、KOYORIをどうぞ宜しくお願い致します。

『KOYORI JAPAN LAUNCH EXHIBITION』

〈アクシスギャラリー〉東京都港区六本木5-17-1 AXISビル4F。
2022年10月28日〜30日。11時〜19時(最終日のみ18時まで)。
入場無料。事前予約不要。


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