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日本の優良・長寿企業と、世界のビジョナリーカンパニー(『日本の持続的成長企業』を読む)
世界の長寿企業の56%は日本にある
前回、世界の偉大な企業の作り方として『ビジョナリーカンパニー2』をご紹介しましたが、今回は日本版ビジョナリーカンパニーと呼ばれている本をご紹介します。
野中郁次郎・リクルートマネジメントソリューションズ組織行動研究所『日本の持続的成長企業 ―「優良+長寿」の企業研究(2017/8/18,東洋経済新報社)』です。
単純な優良企業の研究ではなく、長寿企業の研究でもあるところが面白いですね。日本は長寿企業の数が世界一多い国です。世界最古の企業も日本にあります(578年創立の金剛組)。世界でも創業200年以上のうち56%は日本企業だそうです。
優良で長寿な日本企業の秘密を探る
今回ご紹介する『日本の持続的成長企業』では「50年以上歴史があり、30年以上にわたって持続的に株価が概ね上昇トレンドにある日本企業」の194組織を分析しています。
優良で長寿な日本企業のモデルは、3つの組織能力と3つの価値基準からできていました。
3つの組織能力
業績を総合的に向上させる3つの組織能力は、①実行・変革力、②知の創出力、③ビジョン共有力です。ひとつずつ見てみましょう。
3つの組織能力(『日本の持続的成長企業 』を元に作成)
①実行・変革力
業績に直接影響するのは「実行・変革力」です。決定事項をやりきる「実行力」と、先を見越して変化できる「変革力」からできています。
実行・変革力の源泉となっているのは、長期とスピードを両立させるリーダーシップを発揮する「経営トップ層」、理念を理解し現場でイノベーションを推進する「中間管理層」、環境変化に柔軟な「組織風土」です。
②知の創出力
実行・変革力を支えているのは「知の創出力」です。部門や指示命令系統を超えて動ける「横断展開力」、立場を超えて信頼関係を元に話し合い知恵を出し合う「意思疎通力」、従業員同士の話し合いから生まれる「知の交流力」からできています。
知の創出力の源泉は、知を連結する「中間管理職」、誇りを持ち率先行動する「一般社員」、多様性と一体感を重視する「組織風土」です。
③ビジョン共有力
実行・変革力と知の創出力を底から支えているのは「ビジョン共有力」です。将来のビジョンが決定の背景も含めて語られ、実現に向けた動きが共有されるという能力です。
ビジョン共有力の源泉は、ビジョンを体現し浸透させ、現場感覚を持ち変革を推進する「経営トップ層」と、ビジョンをブレークダウンし浸透させる「中間管理職」です。
そして3つの組織能力をどう発揮しているか、花王、デンソー、パナソニック、キヤノン各社の事例を下にまとめています。
3つの組織能力の実例(同書を元に作成)
3つの価値基準
組織能力の整合性を担保しているのは「3つの価値基準」です。軸となる価値基準があれば、組織の仕組みはその運用や施策実行のプロセスにおいて意味づけが自律的になされていきます。
マネジメントを効果的にするのは「一貫性」です。その一貫性を担保しているのが、まさしくこの「価値基準」だと言えます。
同書によれば持続的成長企業は、①社会的使命を重視しながら経済的価値も重視、②共同体意識がありながら健全な競争も共存、③長期志向でありながら現実も直視、といった3つの対立する価値基準をあわせ持っています。
3つの価値基準(同書を元に作成)
そして各社の実例は下図のとおりです。
3つの価値基準の実例(同書を元に作成)
世のため人のため
「人を持続的に生かせる企業、世のため人のために頑張る企業が持続成長する」という当たり前のことにこそ、企業のエクセレンスの根源がある、それが同書では定量的・定性的に実証された、と野中郁次郎は言っています。
私はコンサルタントとして大手企業のクライアント数社にこのモデルを元に組織開発を進めたことがありましたが、とても納得感を持っていただけたようでした。日本で成長している大手企業にとって、実感が持てるモデルなのだと思います。
日本の持続的成長企業と世界のビジョナリーカンパニーの違い
さて、日本の持続的成長企業と世界の偉大なビジョナリー・カンパニーを比較してみましょう。
1.長期志向と現実直視を両立する価値基準は共通している
共通していたのは、未来を見据えて現実を直視する価値基準です。持続的成長企業では「長期志向でありながら現実も直視」、ビジョナリーカンパニーではストックデールの逆説で「どんな困難にも必ず勝てると確信」するが「極めて厳しい現実を直視する」と表現されていました。現実直視は、世界でも日本でも成功する組織に共通した特徴のようです。
2.企業の目的は大きく異なる
大きく異なるのは「目的」でした。経営理念についての考え方が、やはり大きく違うようです。日本の持続的成長企業では「世のため」に「社会的使命を重視しながら経済的価値も重視」を同時に実現しようとしていましたが、ビジョナリーカンパニーではハリネズミの概念で「自社の世界一」「情熱を持てる」「経済的原動力」の重なりを狙います。そこには「社会的な使命(ミッション)」や「共通善」という視点は書かれていませんでした。
3.個人に求めるものが異なる
次に従業員への態度も異なるように読めました。日本の持続的成長企業においては家族的で運命共同体、「共同体意識がありながら健全な競争も共存」を目指しますが、ビジョナリーカンパニーでは「採用も配属も超厳格」で「自ら規律を守り、規律ある行動をとり、三つの円が重なる部分を熱狂的に重視する人たち」を求めています。
また、ビジョナリーカンパニーでは、リーダーや働く人「個人」に求めるものが明確ですが、日本の持続的成長企業では経営トップ層や中間管理職層など「層」に求められるものがあるだけとも読めます。またビジョナリーカンパニーでは規律ある個人の集合が「文化」を作っていますが、持続的成長企業では組織の「風土」が存在しています。
切り分けられた「個」を大切にする西洋人と、一体感「関係性」を重視する日本人の特徴の差を感じます。
このnoteは拙著『人材マネジメントの壺 テーマ7.組織開発』の一部を再編集して作成したものです。ぜひ本編もご覧ください(^^)b
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