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作品の帰る場所:1 「仲町の家」出張展示 /足立区立郷土博物館

 日本の絵画や工芸は、日本家屋での鑑賞・使用を前提に生み出された。展覧会芸術以後の近現代であっても、私的な注文品、小品などは変わらずそうだった。
 だからこそ、障子越しのやわらかな日差しや蝋燭のたゆたう炎をたよりにして見るときの姿こそが、実像に近いといえる。このあたりは、谷崎が『陰翳礼讃』で述べているとおりだ。
 さらに、画題には季節感がつきものであり、鑑賞の条件として時間軸も重要になってくる。
 作品のもつ本来的な力や、制作者がもくろんだ意図を精緻に把握したいのであれば、掛軸ならば床の間に、画中に示される季節や時間帯に合わせて掛け、照明にもこだわって拝見するのが理想ではある。
 しかし、かような環境のもと鑑賞ができるチャンスはそうそうない。志のある所蔵家や業者と懇意になるか、しかるべきお茶会に参席するか、はたまた自前で準備するか・・・・・・他に妙案があればご教示願いたいものだが、完全とはいわずとも、それに近い体験ができる機会があれば逃さないようにしたいと常々思っている。
 先日は、足立区でそんな僥倖に恵まれた。

 足立区というと、いまでこそ美術館のイメージはないものだが、そのイメージを覆す展覧会が2011年にあった。足立区立郷土博物館「千住の琳派」である。
 現在の北千住駅周辺にあった千住宿は、日光街道・奥州街道の最初の宿場。隅田川の水運も使えるこの周辺には、裕福な商家も多かった。そんな商家の旦那衆と交流をもち、支援を受けた文人墨客のなかに、琳派の系譜に連なる絵師・村越其栄、向栄父子がいたのである。
 「千住の琳派」展は、村越父子の地域に根差した制作ぶりに、初めてスポットを当てた展覧会であった。以来、関連する展示を何度か開催していて、今回わたしが喜び勇んで駆け付けたわずか2日間の限定企画もそういった流れを汲んでいる。その名も『「仲町(なかちょう)の家」出張展示』。(つづく


※「千住の琳派」展のホームページが……消えている。かわりに、直近の類似したテーマのリンクを張ることとしたい。足立区立郷土博物館ではほぼ毎年、こういった展示を継続的に開催している。


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