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第10回 日本の水石展:1 /東京都美術館

 東京都美術館に行ってきた。
 いまそんなことをいうと、「エゴン・シーレを観に行ってきたのね」と思われるかもしれないけれど、お目当てはシーレでもクリムトでもなかった。
 石だ。
 男ひとりで、バレンタインデーに、石を観に行ってきた。

 「水石(すいせき)」とは、平たくいうと ”石の愛好” 。
 姿形、色みや風合いに特徴のある石を採りあげ、なんらかのかたちに見立てをして、かざる。山岳や丘陵、島といった自然の地形、山水風景になぞらえたものが多い。
 「水石」というが、水が流れているわけではない。ついでにいうと、草木や花、苔すらもない。「山水」の「山」にあたるもの、つまり石だけが鑑賞者には供され、「水」やその他の諸要素は、鑑賞者が自分の心のなかに想い描くことで、はじめて立ち現れる。
 こういった趣味活動の存在を、つげ義春さんのマンガでご存知という方もいらっしゃることだろう。
 マンガで描かれていたように、水石の世界には愛好家どうしの強固なネットワークがあり、マーケットも確立されている。
 その中心となっているのが、本展を主催する日本水石協会だ。

 水石の展示を観に来るのは、わたしも今回が初。
 かねてよりこの分野に興味があったこともあるが、伊達家伝来・政宗公遺愛の《加茂川石 銘「神峰」》(個人蔵)を観てみたかったというのも大きい。仙台の人にとって、藩祖政宗公は特別である。

(案内のはがき)

 お知らせにもあるように、市川猿之助さんや明治神宮、さいたまの盆栽美術館など名のある所蔵家からの借用品も並んでいたが、会場の大半を占めていたのは、全国各地にいる愛好家の方々が競って出品した水石だった。
 石は、特注の唐木の台座を靴のように履かせるか、金属や陶磁器製の平たい水盤に乗せられて、恭しく展示されている。
 素人目に見ても、やはりそこいらに落ちている石とは違うなというか、これは落ちちゃいないなと思わせるものしかなかった。全国の目利きたちの自慢の石なのだから、それは当然というかもはや失礼なくらいではあるが……とにかく、「石、かなりおもしろいのでは」と思われたのであった。(つづく


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