惜別の美術館@東京:2
(承前)
——首都圏を離れたての筆者がお送りする「別れが惜しいミュージアム」。まだまだあります。続けてどうぞ。
■たのしい個人美術館
・向井潤吉アトリエ館(駒沢大学)
茅葺屋根の古民家ばかり描きつづけた洋画家・向井潤吉の旧宅兼アトリエが、そのまま美術館になっている。どこか古民家を思わせる三角屋根の母屋に、じっさいに古民家から移築された土蔵のアトリエ。作家の世界にどっぷり浸れる。
・横山大観記念館(池の端)と台東区立朝倉彫塑館(谷中)
そこそこ近いので、2つまとめて。
向井潤吉アトリエ館以上に、人様のお宅にお邪魔するような雰囲気が残っている2館である。そこらへんから作家がふらっと出てきてもおかしくない(←おかしい)。
大観記念館の順路の最後では、大観の一日をビデオで紹介。ふだん、どの時間帯にどこで、どんな活動をしていたのか知ることができた。どこも、先ほどまで巡ってきた部屋。「あそこか!」と気づかされるのは楽しかった。
彫刻家・朝倉文夫の自宅兼アトリエは、施主の個性が存分に発露。プライベート空間のはずだが、「見せる」仕掛けがずいぶんと多い気がする。天井まである本棚だとか、中庭の水量豊かな池と大きな石、2階に現れる和室の大広間など。人を自宅に招いたり、驚かせたりするのが好きだったのかもしれない。ぐるっとパスで入場可能。
・大田区立龍子記念館(馬込)
日本画家・川端龍子みずからが設計した記念館。「会場芸術」を標榜する龍子の作はみな巨大だが、それらを窮屈に見せない工夫が詰まっている。
向かいには旧邸が残り、予約不要のツアーガイドにより公開。こちらも必見。
■無料で入れる
・國學院大学博物館(渋谷)
大学ミュージアムは入館無料の場合が多い。東大に早慶、明治などもいいが、1館だけ選ぶとすればここ。
縄文の火焔土器や古墳の石枕など、レベルの高い考古遺物を中心に、神道、民俗、和歌、宮廷文化、校史などの資料が並ぶ。企画展示は教授陣の研究成果を示す内容で、毎回とても興味深い。
地図を見ると渋谷駅から歩けそうだが、坂の上にあるのでバスがおすすめ。山種美術館とのハシゴも◎。
・半蔵門ミュージアム(半蔵門)
新宗教の真如苑による比較的新しい美術館で、目玉は運慶《大日如来坐像》(重文)。海外流出の危機に瀕したものの、ここに安住の地を得た。常設でいつでも拝観可能。
企画展示の際も入館は無料。現在開催中の「小川晴暘と飛鳥園 一〇〇年の旅」は巡回展で、他館ではもちろん有料だったが、このような場合ですら無料なのはすごい。
名前を間違いやすい「半蔵門ギャラリー」は、駅の反対側にある古美術商。古筆が拝見できる。
・国立公文書館(竹橋)
東京国立近代美術館のすぐ隣にあるアーカイブ施設だが、1階で展示活動もおこなっている。
テーマは多岐にわたる。直近のものを拾っていくと、病、給食、源氏物語、オリンピック、お札に描かれた人物……そして10月からは「龍」。
解説が詳細。館を出るときの満足度はどんなテーマでも高く、ハズレなし。解説や図版を収録したオールカラーの小冊子までいただけて、申し訳ないくらい。
・ポーラミュージアム アネックス(銀座)
箱根にあるポーラ美術館の別館で、主に現代美術の個展やグループ展を開催。気軽に立ち寄れる。
ときおり、箱根から収蔵品を持ってくることがある。10月からは「マティス 色彩を奏でる」を開催。会期直前の引っ越しとなり、この展示を観に行けないのは正直、悔しい。
■ぐるっとパスで無料
・松岡美術館(白金台)
東洋古陶磁に近代日本画・洋画、印象派など西洋絵画・彫刻、古代オリエントや東南アジアの石仏などなど、一度に観られるジャンルが幅広く、充実度が高い。
同じくぐるっとパスで無料になる東京都庭園美術館、国立科学博物館附属自然教育園、さらに目黒区美術館あたりとのハシゴが可能。
・五島美術館(上野毛)
茶の湯美術館の名門ながら、春秋の最も力の入った企画すら無料入場させてくれる太っ腹ぶりに、頭が下がる。春秋には《源氏物語絵巻》《紫式部日記絵巻》(ともに国宝)の特別公開も。
かつては二子玉川を拠点に岡本の静嘉堂文庫美術館とハシゴしたものだが、丸の内に移転。世田谷美術館とのハシゴをおすすめしたい。筆者はレンタサイクルを借りて、直線距離かつ初乗り料金でまわったことがある。
・東京オペラシティ アートギャラリー(初台)と文化学園服飾博物館(西新宿)
ぐるっとパスでは、おそらく最高額の割引となるのがオペラシティ。
現代美術を中心にした、刺激的な企画。ここでの展覧会で、初めて名前を知った作家も多い。上の階の収蔵品展や若手作家の個展もセンスがよく、おすすめ。
徒歩圏内に文化学園があり、教育の参考資料として集められた世界の民族衣装、ファッションを展示する博物館が付属。毎回濃ゆい内容で、大いに楽しめる。こちらもぐるっとパスで無料。ありがたし……
同じくオペラシティ内にあるICCも、ぐるっとパスで無料入館可能。
※詳しくは、ぐるっとパスの公式ページを要確認。
——気づいたら、こんな文字数に……次回へつづく。(つづく)
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