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皇室のみやび 第1期・三の丸尚蔵館の国宝:1/皇居三の丸尚蔵館

 昭和天皇の崩御後、皇室伝来の美術品が国庫に入り、その管理・公開をする「宮内庁三の丸尚蔵館」が設立された。以来、1室のみ・入場無料のささやかな施設で展示活動がおこなわれてきた。
 去る10月1日を境に、宮内庁から国立文化財機構へと移管。11月3日・文化の日には新しい「皇居三の丸尚蔵館」が、これまでと同じ敷地に規模を拡張して開館した。そのリニューアル記念展・第1弾である。

 皇室の祭祀に関わる什物や「御物(ぎょぶつ)」といわれる私有財産は、文化財指定の対象とされない不文律がある。
 三の丸尚蔵館の所蔵品は、すでに皇室を離れた「旧御物」にもかかわらず、依然として長らく未指定の状態が続いていた。
 状況が大きく動いたのは、2021年7月16日。三の丸尚蔵館所蔵の5件を国宝に指定するよう、文化審議会が文部科学省に答申したのだ(9月30日に指定)。未指定から、重要文化財を飛び越えての国宝指定。テレビや新聞での扱いはさほどでもなかったが、業界的には大ニュースである。
 このとき国宝となった5件のうち、狩野永徳《唐獅子図屏風》を除く4件=高階隆兼《春日権現験記絵》、《蒙古襲来絵詞》、伊藤若冲《動植綵絵》、小野道風《屏風土代》を、ひとつの部屋に集めた本展。いずれも教科書などでもおなじみの有名作品であり、非常に豪奢な空間となっていた。

 ただし、じつは、この段階ではまだ「部分開館」。展示室は2室しかオープンしておらず、隣では絶賛普請中であった。これから、さらに展示室が増えていくらしい。

大手門をくぐれば、そこは……工事現場
中央の波打つ平屋根が入場口。仮設感が漂う。本展は完全予約制で、写真の左側に次の時間枠の待機列が形成されていた

 2室のうち、狭いほうの1室で国宝4件を並べた本展、その2倍ほどはあるであろう広いほうの1室では、今上両陛下の軌跡をたどる展示が開催されていた。
 本展にかぎり、作品の撮影は可能。遠慮なく撮った写真をふんだんに使用しながら、これはというポイントに絞って、お送りするとしたい。

■高階隆兼《春日権現験記絵》

 鎌倉時代・延慶2年〈1309〉頃
 展示は巻十二(部分)

 奈良・春日大社の霊験譚を描く、やまと絵絵巻の最高傑作のひとつ。
 縦40センチほどとデカく、彩色はいま塗ったように鮮烈、描写にはいささかの破綻も隙もなくって、いつ観てもオーラがドバドバの絵巻である(語彙不足)。

御簾の細密描写!
興福寺での法会に、春日明神の使いである鹿たちが訪ねてくる場面
熱心に法会を聴く鹿たち。かわいい
僧侶は当然、みなが熱心に聞いているかと思いきや……。耳をそばだてるポーズの僧もいる
こちらも著名な場面。鹿が群れる光景は、今も昔も変わらない。牛車には、地蔵菩薩が乗車中


■《蒙古襲来絵詞》

 鎌倉時代・13世紀 展示は後巻(部分)

 元寇こと文永・弘安の役での戦功・武勲をアピールするため、肥後国の竹崎季長がつくらせた絵巻。以下サムネイルの「てつはう」の場面が、歴史の教科書にはかならず登場するものだが、展示ではその次に有名な、石塁の前を騎馬武者たちが歩く場面が開かれていた。

 わたしが注目したのは、洲浜の景物表現。松の枝ぶりなど、なかなかよい。
 合戦絵だからといって、松の木が雄々しく猛々しく描かれるわけでもなく、瀟洒で、優美ともいえる。
 こういった発見があるのも、実物を拝見してこそと思われた。


 ——容量の大きい画像をたくさん載せてしまい、ページの動きが鈍重になってきた。あとの2点は、次回へ続く。
 (つづく


 ※併設の展示。



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