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没後50年 鏑木清方展:1 /東京国立近代美術館

 《築地明石町》が、見つかった。

 ――その報に接してから、はや3年の月日が経とうというのか。
 令和元年6月の、あのとき……声はうわずり、体はのけぞった。まさか自分の生きているあいだに、《築地明石町》にめぐりあえようとは!

 《築地明石町》は、鏑木清方の代表作。
 切手のモチーフに採用されるなど最も知られた作でありながら、1975年のサントリー美術館での出陳を最後に、その行方は杳として知れず。研究者のあいだでも、実物を観たことのある方はかなり限られていた。
 それが東京国立近代美術館の所蔵となり、44年ぶりに姿を現すというのだ。しかも、3部作をなす《新富町》《浜町河岸》とのそろい踏みで。

 同年秋に《築地明石町》はじめ3作はめでたくお披露目され、奇跡のご対面をはたすことができた。
 澄みきった品格に、背筋がぴしゃりと伸びるような、スッと肩の力が抜けていくような、不思議な感覚を覚えた。

 ――会場をあとにしながら、先々のあれこれに思いをめぐらした。
 3年後、清方没後50年の節目には、近美で過去最大規模の清方展が開催されるとの由。
 はてさてその3年後とやらに、自分はいったいどこで、なにをしているのだろうか……

 その当時は想像すらできなかったような未来を、わたしはいま、生きている。
 《築地明石町》との二度目の邂逅――没後50年の大回顧展が、ついにやってきた。東京での展示は先日8日でお開きとなり、再来週からは京都での巡回展がスタートする。
 わたしは開会の翌週、閉会の前週の計2度馳せ参じ、出品作の9割ほどをカバーすることができた。その所感を述べていくとしたい。(つづく




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