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花と土、自然と人為:1 栗田宏一・須田悦弘展 /山梨県立美術館

 須田悦弘さんのことが気になって仕方がない。須田さんの展示があると知れば、すぐにでも駆けつけたいという気概を持っている。
 須田さんは朴(ほお)の木を素材に本物そっくりな「花」や「雑草」を彫りあげ、思いもよらない場所に配置するインスタレーションで知られる現代美術家。コンクリート打ちっぱなしの壁の隙間から赤い花が顔をのぞかせている。展示室の足許に目を凝らすと、あるはずもない場所に小さな雑草が生えている――そんなシュールな光景はデペイズマンを地で行くものだ。
 このたび須田さんと組んで山梨県立美術館で二人展を催す栗田宏一さんのことを、恐縮ながら存じ上げていなかった。栗田さんも須田さんと同じく山梨県出身で、県内を根城に日本・世界の各地をまわってその土地の「土」を採取し、乾燥させたものを砕くなどしてからきれいに分類して並べる……とここまで書くとまるで地質学者かなにかのように思えてしまうが、やはり須田さんと同じ現代美術家である。

 栗田さんは、乾ききって粒子状になった砂をガラス管に入れ、採集地と採集日を記録したラベルを貼付する。それをガラス管のまま並べたり、顆粒薬を薬包紙に出すように、紙や地面の上に円錐状に盛って整然と並べたりといったインスタレーションをするのである。
 それがなぜインスタレーションとして成り立つのかといえば、土にも土壌ごとに異なる色があるためだ。子ども用の絵の具に「つちいろ」という色があったように、土の色は茶色で、あったとしてもせいぜい黒や赤くらいというのが一般的だろう。しかし、栗田さんの集めた土の色を見てみると、茶色や黒や赤には微細な差異があるのみならず、黄色や青い土すらある。もちろん着色はしていない。
 栗田さんは、平成の大合併前のすべての自治体の土壌から標本を採取したというからすごい。そのすべてではないが、全都道府県を網羅し北から並べたセクションもあり、その土地のことを思い浮かべながら見る楽しみもあった。茶色の系統が占める地味な色調のエリアは北海道。その隣のカラフルなエリアは沖縄だ。東京都のエリアに一部、これまたカラフルなエリアがあったかと思えば島嶼部の産だった。
 土に色があるなんて……これまで意識することがあっただろうか。わたしたちの足許(のコンクリートのさらに下)は、かくも色彩に満ちていたのだ。各地の色とりどりの土がグラデーションを描くようにずらりと並べられるさまはとても目にやさしく、なにより不思議な気分にさせられる。(つづく


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