李禹煥:2 /国立新美術館
(承前)
前半部「彫刻」の多くを占めるのが、《関係項》というシリーズ。
「もの」と「もの」を、ひとつの空間に併置・共存させる。すると、そこに新たな関係性が生じる。空間をひっくるめて、そのまま作品と称したのが《関係項》である。
「もの」は、「石×ガラス」のように異なる素材であったり、同一の寸法の同じ素材を複数個組み合わせたものであったりする。
前者「石×ガラス」の例として、《関係項》(1968/2019年 森美術館)を挙げたい。
ニ畳分ほどある大ガラスの中央に、上から石(というか岩)を落とす。当然、ガラスの表面には亀裂が走る。粉々になって散らばる箇所も出てくる。
これ以上は、なんの手も加えない。
この亀裂は、力学的な計算をどんなに尽くしたとて、もう二度と再現できないものだ。不可逆にして唯一無二、一期一会の関係性が、凍結保存されたように静かに横たわっていたのであった。
「石×ガラス」と同じく、自然物と人工物からなるものが目立つ。石×鉄板、石×ステンレス、石×木の棒、鋼鉄の板×白い綿(わた)……など。
どれも、元来これといった脈絡をもたないものどうしである。さらにいうと、単体で見たとしても、なんらの興味もひかぬ物体でもある。
そんな「もの」と「もの」を組み合わせて関係づけることで、なんというべきか、こんなにも “膨らみ” のある空間が生まれるのだ。魔術でも見せられているようであった。
後者「同一寸法の同じ素材を複数個組み合わせたもの」としては、角材を用いたインスタレーション《関係項(於いてある場所II)改題 関係項》(1970/2022 作家蔵)をご紹介したい。
※動画の34秒~あたり
3本1セットの角材。
あるセットは、側面から見ると三角形をなすように3本の角材がバランスよく組まれ、互いに体重をかけあって自立している。
またあるセットは、壁に立てかけられている。ただし等間隔ではない。
もう1組のセットは、ある程度同じ方向を向きながら、床にバラバラに置かれている。
1セットの1本ずつのあいだに、まずはなんらかの関係性がある。そして、セットどうしの関係性もあろう。
これらをそのまま、人と人との関係に置き換えてみるのも一興だろうが、わたしの場合は「現状に手を加えたら、どうなるだろうか?」などと妄想してみた。
たとえば、いま自立できている3本の角材のうち1本を、少しでもずらしてみたらどうだろうか。ジェンガみたく、かんたんに瓦解してしまう光景が目に浮かぶ。
壁や床にある角材の位置に変更を加えて、あと数センチ移動させたら、見え方にはどんな変化がもたらされるのだろうか。こればかりは、やってみないとわからないか……
どう考えるのも、おそらく自由。
というか、こうして「考えさせること」こそが、本当のねらいだと思われる。
作者の術中にはまって思いきり遊ばされてみるというのが、ここでの正しいお作法なのであろう。(つづく)
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