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テート美術館展 光 ―ターナー、印象派から現代へ:2 /国立新美術館

承前

 本展の心にくいところは、近年、日本での回顧展が好評・盛況を博した複数の作家を、リストに入れてきている点。
 ヴィルヘルム・ハマスホイ(直近の回顧展は東京都美術館・2020年)、ゲルハルト・リヒター(東京国立近代美術館など・2022年)、オラファー・エリアソン(東京都現代美術館・2020年)は、いずれも日本の美術館にはあまり収蔵されてこなかった作家。最近、新規に収蔵する館も出てきたとはいえ、まだまだ国内ではお目にかかる機会が多くない。
 これらの作家を目指して、本展にやってくる方々は多いだろう。

 3人の作家はバラけて配置されていたが、最初に登場したのはハマスホイ。
 明るく広々とした印象派の部屋の次に、照明・点数とも絞ったハマスホイの小部屋が設けられていた。
 ハマスホイの絵は上の《室内》(1899年)に加えて、もう1点あった。《室内、床に映る陽光》(1906年)である。

 《室内》にもまして、「なぜ、これを絵にしたのだろう?」と思わせる情景。
 それを絵として成り立たせてしまう点がハマスホイのすごさでもあるのだが、同時に「けれども、なぜか……いい」ものとして、感覚に訴える力を持っている。絵を前にし、共感する者どうしで、いくらでも語り合えそうである。

 続く展示室は「教育」をテーマとする。
 本展の中心作家であるターナーは、教師として後進の育成にも力を入れた。ターナーに影響を受けたモホイ=ナジはバウハウスやニューバウハウスで教え、バウハウスからは日本人の山脇巌やヨーゼフ・アルバースが出た。アルバースもまた教育に注力した……こういった相関と連鎖が、作品によって語られていた。

 ヨーゼフ・アルバース《正方形讃歌のための習作》は、3点が同じ壁に横並び。

 絵のなかの正方形・色どうしの関係、また、3点それぞれの正方形と色の関係をよーく見つめて、視覚のおもしろさに酔った。
 千葉・佐倉のDIC川村記念美術館では「ジョセフ・アルバースの授業」が開催中で、タイムリーだなと思っていたところ、同じ壁のその先にはワシリー・カンディンスキー、ブリジット・ライリー、マーク・ロスコ、バーネット・ニューマンが続いていった。
 いずれも、川村でおなじみの看板作家である(ニューマンのでかいのは売却されちゃったけども)。近々、川村にも行きたいなぁと思った。
 まったく、同床異夢の浮気者だが、同じようなことを考えていた人は、会場内に他にもいたはず……

 カンディンスキーとライリーの並び。カラフルな色また色の氾濫に、うきうき。

 ※カンディンスキーの色は、実際はもっと明るい

 さらに、ロスコ2点からのニューマン。
 むろん別個の作品だが、展示では黒から赤へ、色みが段階的に切り替わっていくような見せ方となっている。

 このあとに、ゲルハルト・リヒターの見上げるくらいの大画面が控えていた。


 ——こうして画像を並べてスクロールしていくだけでも、主に色彩の面で、作品の組み合わせや展示の流れが細かく配慮・計算されていることが理解できる。
 このような、キャンバスからキャンバスへの切り替わり・色彩のゆさぶりは鑑賞者を魅了するいっぽう、考えようによっては「圧」となって、のしかかってもくる。
 その圧をやわらげていたのが、同じ室内にあったペー・ホワイトのインスタレーション《ぶら下がったかけら》(2004)。

 タイトルそのままに、カラフルな紙くずカケラが、天井からぶら下がっている。ほんとうに、ただそれだけだが……カケラたちやその影がもたらす軽みや揺らぎ、浮遊する感じは、こちらを気圧(けお)すことなく、ある種の安らぎをもたらしてくれたのであった。


 最後の部屋には、照明器具を取り入れた、みずからが光を放つ現代アート作品の数々が集められていた。
 黒いカーテンで仕切られた向こう側、暗闇を左に折れた先に現れたのは、ジェームズ・タレルのインスタレーション《レイマー、ブルー》(1969年)。

 3方向の白い壁。その中央に、LEDライトによって青い四角形が照射され、展示室がブルーに染まる。室内にあるなにもかも——わたしもまた例外なく、ブルーに染められたのだった。
 四角に向かって、すべてが収斂していきそうだ。崇高な、なにかの気配を感じる。聖堂や教会のなかにいる気分に近かった。

 ※こちらの動画で、追体験ができる。


 ——「光」という一貫したテーマはブレることなく、その範囲内で、じつにさまざまな作品に触れることができた。
 感性のどのあたりを刺激されるかも、やはりさまざまだった。四方八方から秘孔を突かれまくって、会場を出る頃には心地よい疲労感を覚えたほどである。
 平日にも関わらず、なかなかの混みよう。会期末に向けてさらなる混雑が予想されるが、ぜひとも足を運んで、お気に入りをたくさん見つけていただきたい、またそれができる展覧会だと思う。

 東京展はラストスパート、10月2日まで。そのあと、大阪中之島美術館へ巡回する。



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