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春の江戸絵画まつり 江戸絵画お絵かき教室 /府中市美術館

 今年の「春の江戸絵画まつり」は、例年にない新趣向。
 江戸の画家たちが用いた技法や道具、表装といった要素に主にスポットを当て、そこから、鑑賞者を実践・体験へといざなう方向性につなげようというもの。つまり、美術史=鑑賞する者の視点に、制作する者の視点を新たに加えている。
 展示会場を出たすぐのところには、専用ブースの「おえかきひろば」が特設。お子さまと、絵心のありそうな方々とで賑わいをみせていた。

毎回恒例、エントランスの撮影コーナー。背景のパネルと子どもたちのパネルの中間に、被写体となる人物が入りこめるようになっている
お絵かきそっちのけ

 本展のメインビジュアルは、撮影パネルにも採用された長沢蘆雪《唐子遊図屛風》。まさしく「お絵かき」をして遊んでいる唐子たちの屏風で、のびのびとした描きぶりがすばらしい。
 画中の唐子が引いた、にょろにょろの線を利用したデザインに導かれて細道を往くと、この屏風が最初の1点めとして現れる。ガラスケースのない、露出での展示がありがたい。
 これに続いて、蘆雪が得意とした雀、応挙が得意とした子犬と、弟子・蘆雪による子犬との比較が試みられる。
 実際の作品はもちろん、今回は日本画家の方を監修に迎えて、描写の特徴や筆の運びなどが詳しく解析、平易に図解されていた。
 描き順や似せるコツなど知っていくごとに、自分でも描けそうな気がしてくる。会場でも、解説を見ながら指先で空をなぞったり、鉛筆で手許の紙に描いたりしている人が多くいた。日本の展覧会場ではめずらしい光景といえよう。
 もうひとつおもしろいのは、会場のデザイン。解説パネルが壁にある……というよりは、壁じたいが解説パネルになっており、さらに時にはそこに展示ケースが嵌めこまれ、作品や資料、画材が展示されていた。ビジュアル満載のムック本に迷いこんだ恰好だ。
 なかでも、表装の過程を、装潢師(そうこうし)の工房をまるごと持ってきたような形で見せる展示はあっぱれ。仮張りの状態の若冲の絵など、本展でしか観られなかっただろう。

 このような展示手法のもと、例年の「春の江戸絵画まつり」同様、円山・四条派の周辺や伊藤若冲、浮世絵などを中心とした「ちょっと(かなり)おもしろい絵」が集められていた。
 八田古秀、森周峰など、名を聞いたとて「ピンと来る」とはいいがたい作者も含まれるけれど、そんなことはどうでもよくなるくらい、選ばれるに足る説得力をもった絵が並んでいる。広く通じうる、おもしろい江戸絵画、おもしろい江戸の絵師を探しだし、効果的に見せることに関して、府中市美の右に出る館はそうは思いつかない。
 わたしの地元・仙台ではメジャーな名数「仙台四大画家」の絵が観られるのも、東京というか宮城以外では年1回、ここだけといってよい。今回は東東洋、菅井梅関の2人が出品。擬人化したカエルの絵の作者である遠藤曰人(あつじん)も、四大画家ではないものの仙台の人である。

 また、技法の徹底解説は、とくにためになった。つけ立て、にじみ、たらしこみ、筋目描き、裏彩色といった江戸絵画でおなじみの技法を、再現映像を交えて紹介。
 裏彩色の箇所では、サンプルの絹本が表裏から見えるような展示方法とし、裏彩色を施さない状態、施した状態の画面効果の違いが明解に。このような参考図版は本や雑誌でもよくみられるが、今回の見せ方が最も腑に落ちた。

 展示の後半は、江戸の画家たちがどんな絵を観て、どんなふうに真似て学んだかという内容で、「美術史パート」といった印象。
 長谷川派に代々継承された粉本がどさっと積まれた一角は、重みある「伝統」を視覚的に提示されたように感じられ、えもいわれぬ迫力があった。
 そのほか、スケールの大きな絵、クスリと笑える絵が比較的多く、楽しみながら観終えた。

 最も気に入った1枚は、鈴木其一の《猫図》(個人蔵)。

(ポストカードより)

 このポーズの猫といえば……竹内栖鳳《斑猫》(山種美術館  重文)ではないか。
 以前わたしは、こんなことを書いている、

毛繕いという、なにげない動作。こんな格好をする猫をそれのみで絵にしたのは、栖鳳が初めてだったのではなかろうか

2022年11月29日更新分より)

 栖鳳が初めてではなく、幕末の江戸に、すでに存在していたのだった。過去のわたし、残念不正解。まったく、驚きである。


 ——鬼がガハハと笑いだしそうなものだが、来年の「春の江戸絵画まつり」のテーマは「ほとけの国の美術」とのこと。
 最近とみに熱い、近世の宗教美術。こちらも今から楽しみだ。


 ※公式ページが充実。情報量が多く、展覧会を追体験できる。


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