見出し画像

電線絵画:1 /練馬区立美術館

 電線や電柱は「景観を害する野暮な人工物」といったイメージが強く、視界から排除されがちな存在である。人がファインダーを覗くとき、電線/電柱が目につかぬよう、構図や角度を思案することもしばしば。世のため人のため野ざらしになって常時立ちっぱなしで貢献してくれているというのに、これほど等閑視され、忌避される存在もないだろう。

 そんなちょっぴり哀れな電線/電柱を主役に仕立てた展覧会が、練馬区立美術館で開催された。その名も「電線絵画」。読んで字のごとく、電線や電柱、電信柱が描きこまれた絵画を集めた展覧会である。
 文明開化を象徴する風物として電線/電信柱・電柱が描きこまれた明治の浮世絵にはじまり、モダン都市・東京やその近郊の風景を活写した大正期から戦前にかけての洋画・新版画に多くのスペースを割きつつ、電線/電柱をモチーフとした現代美術作品、果ては電柱の絶縁体である碍子(がいし)までをカバー。

 このラインナップと視点だけでも唸ってしまう。わたしは1年前に年度スケジュールが公表されたときからずっとこの展覧会を心待ちにしていたのだが、じっさいに会場をまわってみると、よくもまあこんな作例を集めたものだと感嘆しきりであった。
 日本最古の電線絵画に、暁斎と鉄舟の合作による電線の画賛。電線/電柱が描かれず仕舞いのまま未完となった岸田劉生の油彩。戦場で電柱を敷設する兵士の絵。碍子を風神雷神に見立てた玉村方久斗の対幅。まるでブランクーシやイサム・ノグチのような碍子の造形。枚挙に暇がない。(つづく


https://www.neribun.or.jp/event/detail_m.cgi?id=202012111607684505


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?