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死に方を教えてくれた先生



「みんなにいちばんいい死に方を教えとくわ。」


小学生の時、担任の先生がこう言った。




自殺についての話がありますので、苦手な方はお控え下さい。





今だったら、大問題になりそうな先生のセリフだが、今から20年以上前のことなので想像して欲しい。
たぶん、私が小学5年生か6年生の頃だったと思います。
学活の時間に先生は唐突に話し出しました。




「みんな、自分で死ぬとしたら、どんな方法があるか知ってるか?」




クラスのみんなは、ちょっと戸惑っていたと思う。
それでも、首をつるとか? 飛び降りる?とか、そういう声がぽそっと聞こえてきた。
小学生でも、それくらいのことは想像できたし、知っていた。
先生は、みんなが言ったことにうんうんと頷いていた。




そして、詳しくは書かないが、先生は首を吊ったりすると、どういう風に苦しんで死んでしまうかを説明してくれた。




うわっと思いながらも、クラスのみんなは、黙って真剣に聞いていたと思う。

私は、どうしてこんなことを言うのかな?とも思ったし、いつもとは違う学活でドキドキしていました。



これは大人になって思ったことだけれど、その当時、いじめから自殺したという子供のことがニュースになっていた時期だと思う。
まだまだ、そこまでいじめというものが問題視されていなかった当時、衝撃的なことだったと感じていました。





だから、そのことを、いじめを題材にするのではなくて、「死ぬこと」についての話をしてくれたのかなと思う。



もちろん、これだけならよくある先生の良い話なのだけれど。
先生は私たちに一番いい死に方を教えてくれた。




「みんな、一番いい死に方を知ってるか?
 苦しまずに、体も綺麗なまま、死ねる方法しってるか?
 それはな、大雪の日に、いっぱいお酒を飲んで、酔っ払って、雪の中で寝るんや。
 そしたらな、楽しい気持ちのまま、眠るみたいに死ねるんやで。」




「だから、死にたくなったら、沢山お酒持って、先生のところにきてな。」




20年以上たってもまだ覚えている。
クラスの他のみんなは、どう思ったのか、どう受け取ったかはわからない。
でも、私は安心したのを覚えている。




そっか。苦しくない死に方あるんやな。
死にたくなったら、先生に会いに行けばいいんやな。




当時、漠然とした「死ぬ」ということ。
テレビのニュースで見かけるひどい事故や死者の出る災害。
自分から死にたくなるような、辛いことや苦しいことが、もしかしたら、自分自身にも起こるかもしれないという、ふんわりとした不安。




そのもやもやが、さーっとはれたというよりは。
すこし、もやもやから木漏れ日がさしたみたいに、光が見えた気がしたのを覚えている。



そして、私は生きていく中で、やっぱり辛いことがありました。
ふつうに苦しいこともあったし、逃げたくって泣いた日もありました。



そんな時に、ふしぎと先生の言葉を思い出している自分がいました。
「まだ、死にたい気持ちにはならないけれど、そんな気持ちになっても大丈夫だ。」
そう思えただけで、現実は変わらないけれど、とことん絶望することはなかったのです。



これまた、大人になって気づいたこと。
先生ってば、死にたい時は、大雪の日に、お酒を持って会いに来て、と言っていた。
これって、かなり難しい。



まず大雪の日までは死ねないのだ。
冬以外は、まず死ねない。



そして、先生に会いに行くこと。
多分、きっと。
先生に会ったら、思いとどまるだろうなと思う。



単純に、死にたくなったら相談してな。と言われても、ふつう行けない。
でも一般的には、まず相談してと言う。
でもさ、相談して、助けてくれる気ある?って聞きたくなるような先生もいっぱいいた。
心配してるっていう形だけでさ。
とりあえずは、言ったからねっていう。



すごく嫌なことがあってとか、いじめられていて、とか。
そんな風に相談できる人間なら、命を絶とうと思わないだろう。








私自身、いじめられた経験があるが、いまだに親に言えていない。
親子関係はいたって普通だけど、思春期になんでも親に言えるかというと、そうではなかったからだと思う。




でも、お酒を持っていくなら、たぶん行ける。
理由は、それだけでいいし、深いことは話さなくてもいいからだ。






そこまで考えていたとしたら、すごいなあ。



大人になった今でも。
先生の言葉が忘れられないでいるのでした。



あの時いっしょに話を聞いていたクラスメートたちはどうだろう?
あの言葉を、悪い方にとらえることもできるけど、みんな、そうではないと思っている。
言葉は文字にするとただそれだけだけど、話し方や雰囲気で、その人の想いが聞こえる気がする。







先生は、ほんとうにみんなのことを考えてくれていたって私は思っている。




ひとりの人間に、影響をあたえてしまう先生という職業のすごさ。

そして、そんな先生に出会えていたことを、とてもありがたく思う。


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