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榧園好古図譜 ー北武蔵の名家・根岸家の古物(たから)ー/國學院大學博物館

 重要文化財の埴輪《短甲の武人》(古墳時代・6世紀)は、東京国立博物館を代表する埴輪のひとつとして古くから知られており、昭和48年に開かれた特別展覧「はにわ」では図録の表紙を飾っている。

 この埴輪を東博へ寄贈したのは、根岸武香(たけか)という人物。埼玉県の熊谷で代々続く屈指の素封家にして、アマチュアの歴史家兼コレクター、いわゆる「好古家」であった。
 好古趣味をもった友山・武香の根岸家2代とその蒐集品に光を当てた展覧会を観に、渋谷の國學院大學博物館へ行ってきた。展示の冒頭では、《短甲の武人》がお出迎え。

 本展は、熊谷の根岸家に現在も残る資料の調査・研究プロジェクトをもとにしているが、その着手直後、根岸家の蒐集品をまとめた幻の図譜が巷間から出現。長年ずっと行方不明だったもので、今回が初公開。
 題簽のないこの図譜は《榧園(ひえん)好古図譜》と命名。展覧会のメインタイトルにまで昇りつめた。
 掲載された遺物のなかには、根岸家やその他の所蔵先に現存するものも含まれており、図譜と実物とを並べた展示が本展の目玉となっている。

右が《榧園好古図譜》。左の埴輪頭部は……
こちら。根岸家に現存する
服部和彦氏から國學院大學博物館に寄贈された古鏡コレクションのなかには、根岸家旧蔵で図譜所載の《六鈴鏡》(古墳時代・5〜6世紀)が含まれていた。すごい巡り合わせ
図譜では拓本の形で掲載されていた古瓦

 このように、図譜に合致する遺物には現在も根岸家に所蔵されるものが多く含まれており、家の歴史や著名な好古家との交流を物語る資料も豊富にあって、そのタイムカプセルぶりには驚くばかりだ。

根岸家所蔵の器物を描いた、エドワード・シルベスター・モースによる絵画(明治15年)。モースは根岸家を2度訪ねている
好古家の代表・松浦武四郎が描いた《アイヌ舞踊の図》(明治14年)。根岸武香への為書きつき。令和3年の調査で、根岸家の蔵から新発見

 なにより度肝を抜かれたのが、根岸家にはこういった遺物を展示するための、回廊式の「古器物陳列場」すら現存しているということ。
 会場では、陳列場の壁に掛けられていた縄文土器の破片による額や、陳列場の3Dスキャン映像、図面などにより、そのようすを紹介。

 好古家の息吹と熱意を感じさせる明治の展示施設が、人知れず、まるっと残されていたという事実に、興奮を隠せなかった。

 ——根岸家のような好古家たちの草の根の活動の延長線上に、歴史が成り立っている。その軌跡もまた大事な歴史といえ、こうして検証/顕彰していくことには大きな意義があるのだろう。
 奇しくも、静嘉堂文庫美術館の次回の展示は「画鬼 河鍋暁斎×鬼才 松浦武四郎」。上のアイヌの絵を描いた、あの武四郎が主役である。
 4月13日・14日の2日間しか会期は重複しないが、密接に関連するテーマで、併せて訪れたいところだ。

 國學院大學博物館は入館無料ながら、内容が盛りだくさんで楽しい。日本の考古・歴史・民俗・神道といった分野にご興味のある方は、時間に余裕をもって訪問されることをおすすめしたい。

常設展では、いまなら、火焔型土器が観られる


「榧園好古図譜」展は、この1室のみで開催
《人物埴輪》(根岸家)



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