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激動の時代 幕末明治の絵師たち:1 /サントリー美術館

 シンプルなネーミングの本展。
 ポスターやリーフレットには、展覧会名との襷掛け・書き文字ふうのフォントで、こんなコピーが記されている。

 芸  術  は  バ  ク  マ  ツ  だ  !

 おもしろいキャッチコピーである。こちらが展覧会名でも、よかったのでは——
 そうまで思われるのは、「ダジャレとしてイイ(※当社比)」ということのみが理由ではない。
 本展に集うのは、岡本太郎の芸術にも引けを取らないほどの爆発的なパワーを宿した、幕末・明治の絵画。
 そのクセの強さやエネルギッシュさはもちろんのこと、ちょっとマイナーなこの分野の魅力を知り尽くし、また知らしめたいという企画者の情熱がひしひしと感じられたからだ。芸術は幕末だ、明治だ!

 そんな本展の第一の主役として挙げたいのは、安田雷洲(らいしゅう)である。
 師は、あの葛飾北斎。西洋画の影響を強く受けて、きわめて個性的な……いってみれば、かなりキッチュな絵を描いた。本展では1章分を割いて、雷洲の代表的な作例の紹介に努めている。

 ただし——雷洲という名に、どれほどの人が反応できるか、非常に心許ないのは、動かしがたい事実。仮に「安田雷洲展」としても、集客はとても見込めないだろう。
 それゆえに、主役を他にも何人か立て、雷洲を数本ある柱のうちのひとりに仕立て上げた……といった台所事情を、ふつふつと感じさせる内容・構成であった。
 この時代には、アクもクセもインパクトも強い絵師が、まだまだたくさん控えている。そこで、ひと足先に相応の知名度とファンを獲得している狩野一信、歌川国芳、月岡芳年、小林清親、柴田是真、河鍋暁斎らを雷洲と同列に据え、展示の屋台骨を形成しているのだ。
 もっとも、雷洲のすごさは、作品を観ればすぐに伝わる。来館まで雷洲を知らなかったとしても、展示室を出る頃には誰もがその名前や作品を覚えて帰っていくことだろう。アクもクセもインパクトも、なんだかんだで雷洲が最強だった。このメンツの中にあっても、である。

 この「幕末明治の絵師たち」という括りによって、美術史上では非常に重要な存在でありながら “渋好み” といわざるをえない谷文晁とその一門、菊池容斎あたりをリストに入れられる利点もある。
 その他さらに、同時代の絵師たちをどこまで入れていくかについては、拡げていけば際限がない。そのあたりの匙加減こそ見ものといえよう。
 江戸琳派や復古やまと絵は1点もなし。小林永濯の扱いの小ささや、泥絵が入ってきた点など、意外に感じられた点もあった。これも展示の個性であろう。

 このように本展は、画風や画家・画派の変遷・系譜を追おうとするものではなく、19世紀という時間軸でスパッと切って、その断面を見てみようという方向性となっている。府中市美術館で以前開かれた「江戸絵画の19世紀」(2014年)に近いテーマ設定だ。
 そのなかで今回、より強調されているのは、政治・社会上の画期である「激動の時代」に生み出された美術作品もまた、その時代性を映した「激動」ぶりをみせているのだという視点。だからこそ、本展に出ている作品は、アクもクセもインパクトも強いチョイスになる。
 その象徴的な存在としてトップバッターを担うのは、やはりこの男・狩野一信の《五百羅漢図》だった。100幅から、より抜きの6幅が来館者をお出迎え。

 極彩色の6幅の大幅(たいふく)から、大いなる洗礼を受けて、「激動の時代」を駆け抜ける絵画の旅がはじまっていく。(つづく


ヒメリンゴの実のような、ボケの実。浜離宮にて、夜景



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