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芹沢銈介と、新しい日々:2 /東京国立近代美術館

承前

 型染カレンダーで埋め尽くされた壁の向こう側には、染色の作品が。

 まずは、文字をモチーフとした作。
 意匠化された文字は、無味乾燥な記号と化すのではなく、もとの意味を醸しながら、作品全体に大きく関わっている。

《真》(1960年)。布が空中ではためく、あるいは水に遊んでいるかのようなさまが、文字のかたちをなす。周囲の方形を基調とした区画が、画面を締めている
《喜》(1960年)。上の作品とは制作年・寸法とも同一。「ささやかな喜び」といった趣
《木綿地藍染いろは文着物》(1961年=部分)。かな文字がもつ線のおもしろさ、かな書きにしたときの印象のやわらかさが、デザインに活かされている。指でなぞりたくなる


 職人の工房や、暮らしと仕事が結びついた村々のようすといった「ものづくりの現場」を、意匠に起こしたシリーズ。
 沖縄の壺屋焼、栃木の益子焼、宮城の堤焼など、やきものづくりを描いた作をよくみかけるが、出品作のモチーフは、紙づくりの現場だ。

《縮緬地型絵染着物 紙漉村》(1958年=部分)

 沖縄の紅型をベースとした作風ではあるけれど、描かれる風景は上質な和紙の産地・埼玉の小川町に取材したものという。
 谷あいを川が流れ、そのまわりに田畑や集落が形成される……そんな、東武線の車窓からみえた小川町の景色が思い出された。
 ものづくりの情景を連続した文様にしようだなんて、芹沢以前には誰も着想できなかっただろう。
 まさに、工人たちをあたたかく見守る、敬意のこもった眼差しのなせるわざと思われる。

 《芭蕉布地型絵染柳文夏がけ》(1960年)は、芭蕉布を手にとった質感を思い出しながら鑑賞した。

(部分)

 行ごとに反転を繰り返していく柳の木、またその葉っぱがとてもリズミカルで、涼を感じさせる。
 「夏がけ」というのも、またよい。冬だからこそ、夏の夜が恋しくなる向きもあるのだろうか……夏になったら、もう一度観てみたい作品である。

 他にも、型染による絵本、装幀、筆で描かれた絵画などを展示。

《新版絵本どんきほうて(別刷)二 作男さんちょ従へ廻国の門出》(1971年)
《装幀図案集》より獅子文六『可否道』
《椅子とかまきり》

 ——型染カレンダーを主体にしながら、芹沢の広範な仕事の要所要所を押さえた好企画。もちろん、コレクション展の他の企画を一緒に観ることができるし、金・土曜には夜間開館もある。おすすめしたい。
 4月7日まで。


 ※《椅子とかまきり》の椅子、やけに見覚えがあるなと思ったら……わが家の椅子そっくりだった。

 古めの松本民藝家具と聞いているが、あるいは、芹沢が描いたものと同手品なのかもしれない。


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