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最後の浮世絵師 月岡芳年展:8 /八王子市夢美術館

承前

 《東京自慢十二ケ月》、ラストの一枚は、浅草の酉の市の図だ。

 この《十二月 浅草市》、背景の描き込みがやけに細密で、手前の人物像が浮いてしまっているようにも見える。
 画面左下には「景色 年方補画」とある。すなわち、なんらかの事情で、弟子の水野年方(=鏑木清方の師)が背景を補ったようだ。
 さらに年方は、この図様を広重の作品から借用して描いたとみられている。《六十余州名所図会  江戸 浅草市》がそれで、見較べると、ほぼトレースだとわかる。
 こうなれば、人物像と背景がちぐはぐに見えてしまうのも、当然といえば当然だろう。

 絵としての違和感がアリアリなのはひとまず措くとして……この一枚の絵には、芳年がおり、年方がおり、また広重までいるということになる。その向こうには、《築地明石町》を描いた清方すらも控えている――4人の異なる世代、個性の作家が、この一画面にいわば同居しているのである。
 月岡芳年に対しては、浮世絵の終焉期を飾った「最後の浮世絵師」として、また同時に浮世絵から近代日本画へ脈々と続いていく系譜のひとりとして重要な位置づけにあることが近年強調され、再評価の理由となっている。
 この絵は正直のところ「ヘンな絵」で、そういい絵でもないのだが、ある意味できわめて象徴的な一作といえそうなのは間違いないだろう。

 ――月岡芳年展のレビューを、ここまで書いてきた。脱線や中断もあり思いのほか時間がかかってしまったが、そうまでしても書き継ごうというモチベーションが湧いたのは、前回の更新時から現在まで、川崎での芳年展が続いていることが背景にはあった。八王子展の縮小版のような内容である。
 会期は今週21日(日)まで。
 興味のある方は、川崎駅直結の「川崎浮世絵ギャラリー」まで、いかがだろうか。


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