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最後の浮世絵師 月岡芳年展:1 /八王子市夢美術館

 月岡芳年といえば、目を覆いたくなるほどに残虐非道な「血みどろ絵」のイメージが強かった。加えて、幕末明治に特有のどぎつい色遣いへの抵抗感もあって、食指を動かすことは少なかった。
 しかし、最近は「血みどろ絵」以外の画業にもスポットが当たる機会が増え、刺激的な色みを使いこなす繊細な仕事ぶりに触れるにつけて、徐々に魅力を解するようになってきたのだ。
 1月末の『日曜美術館』もよかったけれど、番組内で特集された展示は首都圏では未開催。すぐに観に行けず残念に思っていたところ、ようやく八王子にやってきたので、閉幕ぎりぎりに滑り込んできた。
 点数はぴったり150点。資料的なものは皆無で、同じ寸法・フォーマットの額装が、迷路のようにパーティションをめぐらした会場にびっしり。最後のほうはもうくたくたながら、心地よい疲労感を味わうことができた。
 これはという作品が、いくつもある。その紹介を一部交えながら、所感を綴っていくとしたい。

 ――その前にまず、「血みどろ絵」だが……結論からいうと「出ていなかった」。
 今回の展示作品は名古屋のローカルTV局・メ〜テレ所蔵の浮世絵の一部で、個人のコレクターから一括購入したものとのこと。
 幕末・明治期の浮世絵版画がとくに充実しており、芳年の著名なシリーズものはあらかた押さえられているが、コレクターのお眼鏡にかなわなかったのか、芳年作品としては抜群に知名度の高いはずの「血みどろ絵」は含まれていない。
 正直いってグロテスクな描写に多分に苦手意識があるわたくしとしては、「血みどろ絵」がなかったゆえに、ことさらに観やすかったという面があるのは否めない。
 もちろん、先に書いた鑑賞後の「心地よい疲労感」というのは、「血みどろ絵」の不在だけに起因するものではない。作品の点数が多かったからというのも、まあそうではあるのだが……従来「それ以外」として片づけられてきた作品たちが、これほどまでに見ごたえ・歯ごたえのある作品であるということに気づかされ、またそれらを浴びるように観ることができたために生じたものだったというのがやはり大きく、より正確に近い。
 趣味嗜好の違いはさておき、グロは誰の目にも強烈に映るので、ともすれば他の作品から受ける印象を喰ってしまいがちである。グロの部分がきれいに取り除かれたことで、その強烈さに引っ張られずに、もっとフラットに作品全体を見わたせる作用もあったのではと思われる。
 たまたまといえばそれまでかもしれないが、「血みどろ絵」抜きの今回のラインナップは、芳年再評価にはもってこいの布陣だった。(つづく



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