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このさき、私たち夫婦はいったいなんのために働くのか

「Aさん、もうウチに来れなくなっちゃうよ?それでもいいの?」

1日の終わりに彼のほうから仕事の話を振ってくるのは、かなり珍しいパターン。しかもなんだか、今夜はちょっと語気が強めです。


なんでも、私がアルバイトさんにホールを任せて帰宅しているあいだに、お得意さまのAさんから電話がかかってきてたそうで、ラストオーダーまであと1時間だと伝えたら「じゃあ又にするね」と言われたのだとか。

Aさんとは、部下をたくさん引き連れ、ひとりあたま最低でも5000円(うちでは高いほう)は使ってくれる某有名企業のおエラいさん。仕事の関係で、いつも遅い時間にならないと呑みに出られません。

しばらくは閉店時間をコロナ前より1時間はやめよう、と言ったのは私。だから彼は、このままだと〇〇さんは今後こられなくなってしまうぞ?それでもいいのか?!(=いや、ダメだろう???)と聞いてきたのです。



この note で再三お伝えしているとおり、そしてこの記事が入っているマガジンのテーマでもある「疲弊しない店づくり」を決行するためにも、今の目標は労働時間をなるべく減らすことです。

コロナで営業時間の短縮を迫られたことで「ちょっと待って、この暮らし、めちゃくちゃ快適やん!(帳簿さえ見なければ!)」ということに気づき、現在は試験的に平時より1時間前倒しでお店を閉めています。


この状況が続いていけば、先のおエラいさんだけじゃなく、来られなくなる人はもっと出てくることでしょう。

数年前に閉店を1時間短くしたときだってそうでしたもん。「え〜困るよ、来られなくなっちゃうよ」って、さんざん言われましたからね。だから自分がなにをやろうとしているのかは、わかっているつもりです。


私だって、今までさんざん良くしてもらった人たちと縁を切りたいわけじゃありません。もちろん、今後の売上のことだってそうとう心配ですし......。

しかしだからといって、それら「人との縁」や「売上」が、私たち働く者の多大な犠牲のうえに成り立っているのであれば、考えなくてはいけないと思うんです。もうほんとは、もっとずっと前から見直さなければいけなかった。


彼に限ったことでいうと、これまでに1日15時間以上たちっぱなしで仕事をする日が年に何十回あったことか。

まさか、ぶっ壊れるまで自分の体を酷使する気なのでしょうか。それで困るのは、悲しむのは、誰なんでしょう。

「今のグミは(妊娠で)体がいちばん大事だから、俺ひとりでも遅くまで」なんて言いますが、「自分だけがしんどい思いをする分にはかまわない」というパートナーと、私は心穏やかに暮らせる気がしません。ちょっと、身勝手だとさえ思ってしまいます。

定年のない私たちの商売。先はまだまだ長いのです。



「いったい私たちは、なんのために働いているのか。これ以上、自分たちの生活を犠牲にしたくない。家族との時間を大切にしたい」

前回は言えなかったので、改めてこのことを彼に伝えてみました。返ってくる言葉はだいたいわかっています。

「じゃあ、売上はどうするの?なにもしなければ減っていくだけなんだよ?」

はい、きました。すぐに答えが出せないやつ。やはりお金のこと、心配なんですね。


以前にもチョロっと書いたのですが、彼には「家族を養う一家の長として、お金を稼ぐことこそ人生の最重要ミッション!」みたいなところがあります。世代、なんですかね。

もしくは小さいころ、ろくすぽ働かない父が母から逆三行半を突きつけられて出て行ったこと、当然ながら養育費なんて1円ももらえず、店を切り盛りする母の苦労を見てきたことなんかが、彼のなかの「男はこうあるべき」を形成してきたのかもしれません。

ですのでこうして売上の少ない今、自分はきちんと男としての役割を果たせていないんじゃないかという、自責の念や、不安や焦りの気持ちがあるようにも見てとれます。


一方すでに私と7年暮らしてきて、自分に期待されていることはもっと別のところにあるのかもしれないなと、うすうす気づいてくれているようにも思います。

私、商売に関わることがスキですし、おまけに「養ってもらう」っていうポジションが、よそ様はどうあれ生理的に苦手。そのことも、彼はよく知ってくれているはずなのです。


私は、重くなってきた空気を払拭するように、不自然なほど明るいテンションではっきりと言いました。

「売上でしょ?考えるよ、考えます!だけど、たぶんきっとまた、あなたの想像にも及ばないような突拍子もないこと言うよ?覚悟しておいてよねっ(笑)」。

気持ち悪いぐらいニコニコする私をよそに、腕を組み、いつになく硬い表情で「うーーん......」と考えはじめた彼。

「ふぅ」といちど小さくため息をついて、言いました。

「この店はグミあってのものだから、どっちにするか、決めていいよ」。


なかば「もうどうにでもなれ!」みたいな開き直りにも見えましたが、理解しようと寄り添ってくれたこと、感謝します。ありがとう。

奇遇にも私たちは、年齢こそ17つ違えど、幼少期に親の仕事とオトナの事情の犠牲に少なからずなった者同士。

彼に関していえば、娘が小さいときに自分の幼少期と同じような思いをさせてしまったこと、少し後悔しているという話も聞いたことがあります。

だからたぶん、これからの人生なにを中心に生きていきたいかっていう気持ちは、ほんとは同じなんですよね。



私は貪欲なので、金銭的に苦しみたくもないし、好きなこともしたいし、家族との時間も大事にしたい人です。

ソレを叶えるのに、現代がイイ時代か悪い時代かっていったら、どちらかというと「イイ時代」のような気がしています。

必ずやってみせますよ。




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