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シン・長田を彩るプレイヤー ~世界に一石を投じ続けるコミュニティメディアプロデューサー~(後編)


今回は、FMわぃわぃ代表理事・金千秋さんを取材しました。
社会の空気感やマイノリティの心の不安などは、出会う機会がないとわからないとおっしゃっていた金さん。

後編では、そんな金さんの活動の一つである「多文化共生ガーデン」のお話や、長田とのつながり、そしてこれからの取り組みについてお届けします。


「出会える」場所をつくる

-記者-
空き地を在日外国人が自由に使える畑として活用する、「多文化共生ガーデン」の取り組みもされていますよね。

-金さん-
1995年からずっと多文化共生を目指してやってきて、ある一定のものができたんじゃないかと思った2018年頃、市営住宅に住むたかとり教会の信者のひとりが、花壇にフキを植えたらすごく怒られたっていう話を私にしたんです。
「隣でお花を植えたおばあちゃんは感謝されたのに、僕は外国人だから怒られた」って言ったんですね。
怒られて悔しいとかそういうことじゃなくて、外国人だからあかんねんって諦めてしまう、その事実に衝撃を受けた。

それがきっかけで、神戸市にも空き地を使って畑を作れないか相談したり、顔見知りの自治会長さんたちにも声をかけたりして。
やっぱり空気感の問題もあって、「外国人が集まってややこしいことをするのはやめてほしいねん」と言われることもあったんですが、「どうぞ使ってください」と言ってくれる方になんとか巡り合って畑ができたんです。

内閣府から認められたり、新聞社に取材されたりして、私もサポートはしていたんですけれども、途中からはもう本人たちが取材に答えられるようになったんですよ。
地域の人とも名前で呼び合ったり、「大根いりますか?」とか「パクチーはいりません」とか「唐辛子もいりませんけど、これは欲しいです」っていうやりとりができるようになってきた。

そこが出会いの場になって、今までにない経験ができる機会をつくる。
この取り組みがそういうものになったのは、すごく大きなことです。

-記者-
「多文化共生ガーデン」は様々な方とのコミュニケーションによって生まれ、今も出会いを生み続けているんですね。
金さんがマイノリティの方々とコミュニケーションをとっていく中で、初めて気付いたことはありますか?

-金さん-
私たちがマイノリティを支えるなんていうのは、傲慢なんだっていうこと。
障がい者の方の番組も、マイノリティだからって、お金をとらずにやってたんですよ。

でもそれは違うなって思って。
ネット放送に代わってからは、みんなのメディア、みんなで支えるんだからあなたもお金を出しましょうということで、無料で参加できる番組はひとつもないんです。

土曜日の12時からの1時間は「ワンコイン番組」を作ってるんですが、そのワンコインっていくらだと思います?

-記者-
500円でしょうか?

-金さん-
と思うでしょう。
お財布の中の1円もワンコインよって言ってるんです(笑)
FMわぃわぃがマイノリティを支えますっていうのではなくて、マイノリティ・マジョリティ関係なく一人ひとりが支え合うためにやっています。

もうひとつはですね、誰でも何か役に立つし、誰でも誰かに迷惑をかけてるということに気付いた。
視覚障がい者と脊椎損傷で車いすの人に一緒に出てもらった番組があって。
車いすの人が、「点字ブロックをどうしても通らないといけないとき、脊椎損傷にとってはものすごいダメージなんです」と言っていて。

マイノリティも誰かには迷惑をかけてるということに気付かないといけないなあと。
それには、気が付くエピソードを出すとか、はっと気が付く心をつくっていかないといけない、という風に思いました。

-記者-
マジョリティがマイノリティを理解することも大事だけれど、マイノリティも同じように理解し、互いを支え合うことが大事ということですね。

-金さん-
そうなんです!
阪神・淡路大震災のことで幼稚園に話しに行ったりするんですけど、「ものすごい大変やってん!!」っていうのを伝えるんじゃなくて、「自分は何ができる?」「どうしたら自分の命が守れる?」という話をするんです。
そうして自分自身の能力を発見していく、自分の持っているものに気付くことがとても重要なんじゃないかなと思います。

大人も一人ひとり自分に問いかけて、例えば会議で「これをした方がいいと思います」って意見を出していく。
そうして知恵を積み重ねていくことが大事なんだろうなあって思ってます。

それとあわせて、「何故?」「どうして?」って疑問をたくさん持って発信していかないとまちは停滞していく。
「なんで?」と言いにくい日本社会の空気を変えていく必要があって、だから私は会議で「なんでですか?」ってわかっててもあえて言うようにしている。
それが私の役目かな、と思ってやっています。

-記者-
私もこれからは積極的に周囲を見て疑問を持ち、働きかけていこうと思います。

長田から世界に向けて

-記者-
もともと長田に住んでいたわけではないということでしたが、来た時の印象と、そこから様々な経験をされた今見える長田に違いなどはありますか?

-金さん-
もちろんあります。
私は三宮の中央部分に実家があって、阪急六甲で育って。
その当時の長田区は、私の神戸生まれ神戸育ちの歴史の中で、印象にない地域だったって感じですね。

それが彼と知り合い、新長田の焼肉屋さんに行くと、こんな美味しい肉の食べ方があるんや、と思って。
北野あたりの、長い帽子を被ったシェフが作るような肉しか食べたことがなかったから、ものすごく衝撃でした。
それが震災ちょっと前の長田の印象です。

それで、震災後にたかとり教会に来たら、教会かつ救援基地として、ベトナムやラテン系の人だったり、国境なき医師団や国際支援団体の人だったり、全国からいろんな人たちがやって来る。
在日コリアンのコミュニティしか知らなかったのが、ここへ来るとぐっと世界が広がったんですね。

だから私としては、この長田っていうのが、解放区のような感じで。
「原始時代から新たなまちをつくるんだ!」というエネルギーを感じた。
想いを持った多様な人々が世界にはこれだけいるというのを理解できた。
この人たちをつないで新たなまちをつくるために、メディアを使うことに気付けたのは、長田だったからこそだと思います。

―記者―
では最後に、「誰一人泣かないですむまちをつくる」という大きな目標に向かって、今後は何に取り組みたいですか?

-金さん-
世界は今紛争だらけですよね。
やっと冷戦が終わった、良い世界になるかなと思ってたのが、また戻ってしまっている時代だからこそ、誰かを助けたい

震災のあった長田だから、そこでいろんな人達に助けられたっていう優しさを知ってるから。
憲法9条がある日本だから、原爆を落とされた日本だからできることを、どう発信したらいいのかなって、最近はずっと考えています。

-記者-
難しい課題ではありますが、多くの人が想いや考えをどんどん発信していくことで何か新しい答えが見つかる可能性もあるので、やはり石を投げ、揺らぎをつくり続けることが大事だなと感じました。

-金さん-
でね、私はYouTubeやメールマガジンなどで配信していくことができるじゃないですか。
皆さんにもできることはきっとあると思うので、同じように「自分は何ができる?」っていうのを一人ひとりが考えていくと、力になるんじゃないかなと思っています。

マジョリティもマイノリティも関係なく、誰もが自分にできることを探し、一人ひとりが支え合うことの大切さを教えてくださった金さん。

そのお話の中にははっと気付かされるエピソードが盛りだくさんで、記者にとってまさに多様性に触れる機会となったインタビューでした。
(編集:すず、こんちゃん)