ときめく喫茶紀行。 六文舎喫茶部
旅の楽しみに、その土地の喫茶店やカフェに行くということがあります。
昔ながらの純喫茶、旅好きなオーナーがいるカフェなどなど...
地方のカフェや喫茶店はお店の人の好きが溢れた空間が多い気がします。
私はホテル巡りも趣味なのですが、カフェとホテルは似ていると感じることがあります。それは、他人の「好き」にお邪魔できるということ。
日々、普通に暮らしていると、ついつい自分の関心ごとだけに目が行ってしまいがちです。私にとって誰かの好きに出会える空間は、自分の価値観の外側に連れ出してくれる、貴重な存在です。
自分の価値観の外側にこそ、新しいモノとの運命的な出会いや、ときめきがある気がします。
【ときめく喫茶紀行】では、旅先で思わずときめいてしまった瞬間を、書き残していこうと思います。
和歌山県田辺市 『六文舎喫茶部』
和歌山県南部の中心地、田辺市。世界遺産の熊野古道の起点としても便利な街です。そんな田辺市の静かな住宅街の中に、ひっそりと佇むカフェ『六文舎喫茶部』。
和歌山は昔ながらの純喫茶が多いので、田辺市でもどこか喫茶店に行きたいなーと、Google Mapで探していたら偶然このカフェを見つけました。
地元のデザイン事務所が会社の1階を喫茶店としてオープンしたカフェだそうで、これは素敵に違いない!と思い、訪れてみたのですが、、、
自分の偶然の嗅覚を褒めてあげたいと思うほどに、あたたかい時間がながれる居心地のいい空間でした。
その土地の日常にお邪魔すること
早起きをして周辺を散歩していたので、わたしは1番乗りで入店。その後、ゆるりゆるりと、常連のお客さんらしき人たちが集まってきました。
ドアを開けるなり、地元のおじさまたちは、「いつもの」「アイスで!」などと言って、入り口の近くにおいてある本棚から、何気なく一冊本を手に取りカウンターに座る。
ランチのメニューは、カレー。店内にふわっと炊き立てのジャスミンライスの香りがお店いっぱいに漂いはじめ、数年前に旅をしたスリランカの記憶が鮮明に蘇りました。
おしゃれで流行りのお店に行くのもいいけれど、旅の醍醐味は、その土地の日常にお邪魔することにあるんじゃないかな、なんて感じます。そんな日常の時間こそが、尊いなあ、と。
答えのないものに、思いを巡らせる時間
店内では、地元の方が撮影した写真の個展を小さく行っていました。廃墟になっているスーパーの床に雨上がりに模様が浮き上がっているのを撮影したという、おもしろい展示でした。
どうやら常連さんたちの会話に耳を済ませていると、撮影した人は、顔馴染みのよう。
私がカレーを食べていると、もう1人地元のおじさまが入ってきました。写真の感想を自由に書けるメモ帳があると知り、カウンター席に座りながら、ペンとメモ帳を持ってしばらく写真をじっと見つめます。
「批評せなあかんのー?笑」
「●●、面白いの撮るなあ」
「うーん、漫画の世界やな...」
「ラブリーの世界ではないなあ...その手前や。」
「あーむずかし。」
「そうや、絵本の世界や!」
30分ほどでしょうか。メモ帳をもって写真を何度も振り返りながら、1人で色んな言葉を呟きながら、感想を考えていました。
そんな光景を目にしたら、もう、たまらない気持ちになってしまい。。。なんだか嬉しくて嬉しくて。ニヤけるのを堪えるのに必死でした。
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以前、ジブリの鈴木敏夫さんの本で、「耳をすませば」の映画化のきっかけになったエピソードを読んだことがありました。
夏になるとよく仲間内で、信州にあるアトリエに集まっていたそうなのですが、本当に田舎だったので夜にやることがない。
そんな時に、宮崎駿さんが何かないかな?と部屋の奥をがさごそさがし、親戚の子が遊びにきていたときに置いていった少女漫画を発掘してくる。
これ読んでみてよ。と宮崎さんが持ってきたのが、当時の漫画雑誌「りぼん」。連載2回目の「耳をすませば」が掲載されていました。鈴木さん以外にも、一緒にいた押井さんや、庵野さんも読んだそうです。
宮崎さんが「この話のはじまりは、どうなっていたんだろう?」と言い出し、みんなで想像を膨らませ話し合う。
すると、当然その後のストーリーも気になり、ああでもない、こうでもない、と、勝手にストーリーを作りあげては、毎晩楽しんでいたそう。
東京に戻ってから、宮崎さんがその先のストーリーが気になっていたようで、誰か漫画持ってない?と尋ねると社員の1人が全巻持っていた。
あっという間に全てを読み終えた宮崎さんは、「(自分が思っていたものと)話しが違う!」と怒り出した(笑)というエピソード。
(天才の思考 鈴木敏夫)
答えのないものに思いを巡らせ、仲間とああでもない、こうでもない、と語り合う。本当に、豊かな時間だなあと羨ましく思いました。物語やクリエイティブって、こういう時間から生まれるんだな、と。
和歌山の小さなカフェで出会った光景は、まるでジブリのメンバーが自由にあれこれ自由な空想を広げている時間と、同じように思えました。
このカフェをきっかけに街に住んでいる人の日常に、押し付けがましくなく、とても自然体で、豊かな時間が優しくデザインされている。
無意識のうちに、ちょっぴり世の中への"感度"があがる時を過ごせる、そんな場所だなあと感じました。
六文舎喫茶部のおいしい時間
思わずときめくおいしいメニューたちの記録。
カラメルがたっぷりかかった、優しい味の固めプリン。
お店こだわりのラオス豆の珈琲と一緒に楽しむ。
食べた終わった後の残ったカラメルがきれい。
スパイシーチキンカレーと、日替わりカレーの合掛けカレー。野菜たっぷり。
ちょっとした小話。
窓際の日当たりの良い席は、メニューに虹がかかる特等席です。
旅の日常の、尊い景色と出会えたちいさなカフェ。
答えを求めすぎる時間とちょっと距離を置きたくなったら、またおとずれようと思います。
■お店の情報
六文舎喫茶部
和歌山県田辺市末広町8−10
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