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円城塔『文字渦』感想 嬴贏羸蠃贏臝驘鸁……

むずいっすよ、漢字。(小並感)

 紙ではなく電子書籍で買えばよかったと後悔した初めての話がこの『文字渦』。とにかく慣れない漢字がこれでもかと出てくる。電子で有れば画面をタップしてそのまま検索出来るのにと何度思ったかわからない。形はわかるのに、音が分からず調べる事もできない。だから意味もわからない。文字渦というか文字禍というかんじであった。

 それでも最後まで読み進めていけたのは、不明な文字へ混乱する人々が物語の中で描かれており、読者である自分の混乱と彼ら(彼女ら)を重ねて共感していたからだと思う。こんな読書体験も初めてだし、もう2度は無いのではないかと思う。

不思議な魅力

 登場人物であるは人の形を粘土に写す才能を買われて兵馬俑の作成を黙々とこなす。彼いわく

俑には秦の文字がよくわからない。この地で使われている文字は、俑の見知った文字とは違い、なんというかこう、度を超して簡潔にすぎるのである。ただの線の入り組みであり、線でしかない。

 そして、俑のこの言葉に読者として共感し、一点は別にして思うのであった。「度を超して難解すぎる」と。一方で、この混乱が不思議と物語の世界へ招いてくれていたように、読み終わった今は思う。せっかくなので、未読なら紙の本で読んで欲しい。願わくば自分と同じような混乱を味わって欲しい。

おわりに

 難しい漢字がいっぱい出てきておわりではない。人の形と中身が、漢字の形と意味に対比される。すると、今までさらさら流し見していた「形」だけの意味のない(わからなかった)文字達への何ともいえない申し訳なさというか、切なさというか、言葉にならない思いが現れた。その答えはまだよくわからないが、この読書体験は新鮮だった。


ちなみに、タイトルの漢字はよく見ると全て違う

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