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【読了】増田隆一『はじめての動物地理学』

 日本にはヒグマとツキノワグマの2種類のクマが生息しています。ヒグマは北海道、ツキノワグマはおもに本州に生息しており、両者が共存している地域はありません。

 世界的にみると、ヒグマは北方の寒冷地に分布しており、ツキノワグマは温暖な南方に生息しているのがわかっています。この動物はどういった地域に生息しているのか、どうしてこの場所にこの動物が生息しているのか。そうした疑問と向き合うのが「動物地理学」という学問です。

 今回はこの動物地理学の世界に一歩踏みだす1冊を紹介します。本書を読了後、あなたの身の回りにいる動物たちへの見方が、ちょっとだけ変わるかもしれません。

増田隆一『はじめての動物地理学』岩波書店 2022年

110ページにまとめられた
動物地理学の入門書

 本書は4章構成で、地域によって生息する動物が異なる理由について書かれた1章、誕生した動物たちが世界へ散らばっていった足跡を語る2章、動物地理学と進化を関係についての3章、動物地理学から人間社会を考える4章と分かれています。本文には動物の写真や地図のイラストが添えられ、各章末にその章の内容のまとめとちょっとしたコラムも収録されているので親しみやすい構成だと感じました。動物地理学という、少し馴染みの薄い学問の入門書です。

 本書は「ジュニスタ」という岩波の中学生向けシリーズの1冊なので、文体もやさしく内容もわかりやすく綴られています。約110ページと短く、中学生くらいなら1日でサクッと読めるのではないでしょうか。今の時季だと夏休みの読書感想文などにも最適です。

「種」の定義や生息の経緯など
生き物好きの再履修用の教科書

 私は生き物が好きなのですが、北海道のヒグマがどういった経緯でそこにいるのかや、5種類いるサイ(インドサイ、ジャワサイ、クロサイ、シロサイ、スマトラサイ)がそれぞれどのように近縁なのかなど、本書で改めてまだまだ知らないことがあると気づかされました。とくに勉強になったと感じたのは、そもそも動物の「種」という定義はどういったものか、という点です。単純に交配して子が生じるかどうかが基準と思っていましたが、どうやらそうとも限らないようです(くわしくは3章に書かれています)。こうした気づきが得られるので、生き物が好きな人にも再履修のような気持ちで読めるのでおすすめです。

ツキノワグマとアカギツネの剥製。
この2種も本書で登場

 また、地球の寒冷期と温暖期がそれぞれどのように動物の分散を促進するのか、地球にたった1つだけ存在した超大陸(パンゲア)が分かれ、その大きな流れが動物たちどう影響したのかなど、時間と空間の変化と動物たちの変化が超スケールで想像でき、その大きな流れの一部に私たち人間も含まれるのだろうな、と雄大な気分になりました。数多くの変化に揉まれながら、「私」という個体が発生したのだと思うと、これからの「私」個人の些末な変化でさえも、じつは人類にとって大きな変化になり得るのでは、なんて大げさに思いました。

ニホンザル。日本固有種として本書で紹介

 贅沢をいえば、もう少し鳥類についての話があってもよかったな、と思いました。たとえばニュージーランドには飛べない鳥がたくさんいることや、「どうして日本にはコウノトリがいて、シュバシコウがいないのか」といったふうに、移動性の強い鳥類だからこそ語れる話がいくつかあるのでは、ともったいなく感じました。

 ただ、ゾウやサイ、クマなど動物園でお馴染みの種や、タヌキやキツネといった比較的私たちに身近な動物が主軸に語られるからこそ、子どもたちの興味をそそるのかもしれないな、とも思います。本記事で少しでも興味をもった人は、ぜひとも手にとってみてください。これまで気づかなかった発見が、本書でみつかるかもしれません♪
 

 

 

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