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ソウルを超えたソウル スティービー・ワンダーのLiving For The City

おれ、全然分かってなかった。スティービー・ワンダーの偉大さを。

ホントそういう気持ちにさせられたのが、この曲!

当初は「なんだ、これっ!!??」っと得体のしれない魔物を掴んでしまった感覚。

スティービー・ワンダーによる名作インナービジョンズに収録のLiving For The City。

この曲は、リズムはロック王道の8ビート。シャウトもR&Bやブルース、ファンクノリじゃない。どっちかというと、ハードロック調。

黒人より、白人が好みそうな曲じゃないですか?こういう単純化もあまり良くはないのだけど。実際ディープ・パープルのメンバーなんかがカバーしてたりする。

ディープ・パープルっちゃあ、これですよね。Smoke On The Water。これもギターリフからの8ビートで、ロックと言えばこのリズム。

スティービーのLiving For The Cityと同じようなリズムなわけです。で、くだんのディープ・パープルのメンバーがカバーしたLiving For The Cityがこの動画。

Living For The Cityは、あー、そうなんだー 白人っぽい、ハードロックっぽい音の名曲なんやー、と。

で、ここからなんですよ。自分も英語大してできないので、しばらく後に気づいたんですけど。


これ、歌詞がめっちゃ怒ってるんですよ。黒人差別に。

田舎の黒人の両親は死ぬほど働いて1ペニー貰えるかどうか。もう街へ出るしかない。そう思い詰めた少年はNYへやってくる。街の通りで黒人の大人に「そこの坊や、この荷物を持って行ってくれないかい」と頼まれごとをされる。言われた通りにしていると、その途中で突然警察に捕縛され、裁判で10年の懲役刑を下される。 始まった瞬間ジ・エンドなストーリー。スティービーは叫ぶ。「こんな街、もううんざりだっ!!!」 そして邦題も「汚れた街」。

白人がやるような音楽に、白人中心社会を告発した歌詞を乗せてるんですよ。

白人も楽しませながら、彼らにとってめっちゃ耳の痛いことを吠えてるんです。

ハードロック調の名曲なんで、当然黒人だけじゃなく白人のリスナーの耳も捉えるわけです。ところが、その歌詞は黒人差別に怒ってる。

距離感というか、認知が狂ってくるわけです。心は掴まれているが、頭は受け入れられない、って感じでしょうか。

だから、曲が「この問題から目を逸らすなよ」と迫ってくるんです。まさにBlack Lives Matter。


そういう、気持ち良さと、気持ち悪さが同居した、怪曲なんです。楽しませるだけでなく、考えさせる。考えさせるだけでなく、楽しませる。


そういう正反対の二つのことを同時にやってのけた、現代美術なども含めた現代文化として、非常に重要な曲だと思います。

スティービー・ワンダーが天才と称されるのは、常に最前線で戦ってきたからなんですよね。

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