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2023年映画感想No.12:FALL / フォール(原題『Fall』)※ネタバレあり

特定のシチュエーションから抜け出せなくなって絶体絶命もの

シネクイントにて鑑賞。
海に飛び込んだら甲板に上がれなくなる『オープン・ウォーター2』やスキーリフトが止まって大変な目に遭う『フローズン』など、ある状況から抜け出せなくなって絶体絶命、的なサバイバル映画の最新系譜。今回は高い塔に登ったら降りるためのハシゴが無くなってしまう。
相変わらずこの手の他の映画同様にこのシチュエーションだけで一本映画作れるのか!?と心配になるくらいバカバカしいアイデア一発が軸の脚本なのだけど、ハイコンセプトなあらすじから期待される「高所」を活かした見せ場と終盤の頭のおかしい展開で映画代分は楽しめる映画だったと思う。

塔に登るに至るきちんとした動機付け

迂闊な好奇心で高いとこ登ったら降りられなくなって大変、的な迷惑系YouTuberの因果応報の物語だと思っていたら塔に登る動機付けが結構しっかりとある。アバンタイトルにロッククライミング中の転落事故で旦那を失った主人公がそれから約一年酒浸りで落ち込んでいるのが結構深刻で、この主人公がテレビ塔に登るに至るまでが中々想像できなくて事の経緯への興味がグッと高まった。
留守電の声で旦那を思い出す様子は切実だし父親の励まし方も中々に無神経で結構立ち直る糸口が無さそうに見えるのだけど、そこから軽薄そうな親友の誘いで「よしやろう!」となるのはジャンル映画らしい調子の良さで軽いけど楽しい。
「もう死のう」とまで思ってた人がノコノコ立ち直るほどの説得力はあの親友には感じられないのだけど、一応ちゃんと主人公が計画に乗ることにワンロジックがあって展開を飲み込みやすくする描かれ方になっているのが良かった。

軽薄な親友のそこはかとない印象の悪さ

ちょっと会わない間にインフルエンサーになっていた親友が自分を慰めようとしてるのか撮れ高のある動画を撮ろうとしてるだけなのかイマイチはっきりしないのも絶妙に信用できない軽薄さで、後に感じ悪いことになりそうな要素がしっかり積み重なる。
予告編にもある「ながら運転で事故りかけたのにまたすぐ動画を撮り始める場面」など、こんな人間の考える計画なんてロクなもんじゃない感がしっかり不穏で良かった。主人公も結構早い段階から嫌味を言いまくっていて笑ってしまうし、それでもあまり感じ悪い空気にならないのがこの二人の関係性というより「バカは自分に都合の悪い話を聞かない」という救いようのなさのように見えてしまう。
ダイナーで電気を盗んだり、「入るな」と書いてある敷地に入ったり、「やるな」という忠告を無視する愚かさが「いつか絶対大変なことになる」の「大変なこと」を起こす因果応報の必然性を強めている。
そもそもロッククライミングで旦那を亡くしたのだからそれを乗り越えるにはロッククライミングするのが筋だと思うのだけど、そこが「ほぼ一緒」くらいの適当さで不問にされているのも絶妙に親友の自己都合を感じさせる印象の悪さで良かった。

美味しい前フリ描写

塔を登る場面はこの映画の一番美味しいところだけあって後の絶体絶命に向けたフリをここぞとばかりに積み重ねる。ハシゴ、切実に揺れる!塔、切実にボロい!そして高いところ、切実に怖い!と状況から来る厭な緊張を最大限に実感させてくれる描写の数々が楽しかった。一歩間違えたら死ぬ!という高いところの怖さをこれでもかと拡大するカットがてんこ盛りで高所恐怖症じゃなくとも高所恐怖症になると思う。
登り切って一しきりはしゃぐ場面もやってることのバカさが「この後ハシゴ外れて降りられなくなるのになあ」と思うと何倍もバカに見えるのだけど、一応彼女たちのいるところがいかに何もできない場所かという状況の説明であったり手持ちのアイテムの紹介であったりと後のサバイバルのセッティングにもなっている。
写真撮る事に夢中で掴んでいる手が離れそうになるカットなど二人の関係性の中にある不安を思わせぶりに示していて、人間ドラマのための予感も感じられた。

降りられなくなって大変サスペンス

そんなこんなで降りようとしたらハシゴが取れてしまってさあ大変!というところからがこの映画の本番なのだけど、基本的に彼女たちはバカなので物事を解決しようとする発想が行き当たりばったりというのが振り返ると結構致命的な状況の悪化を招いている。
絶対まずはドローンだろうと思って観ていたのだけど、落としたリュックのことなんて考えもせず電波の繋がらない携帯からSOSを発信するために地上600Mの高さから落とそう、という発想になるのでビックリしてしまった。
リュックを取りに行く場面はクライミングスキルという主人公たちの能力を活かした見せ場になっていてこの映画で一番ハラハラするいい見せ場になっている。その場にあるものを使って工夫する面白さもあるし、ちゃんと後の展開にも活きてくる。
「助けを呼ぶ事」、「脱出を試みること」、「飢えを凌ぐこと」というサバイバルの大きな論点においてそこから先は描写的にやや中だるみする感じもあるのだけど、その「引き伸ばされる結論」の手触りが終盤に明らかになる構造的な仕掛けのギョッとするサプライズを良くも悪くも際立てていると思う。

とってつけたような人間ドラマ

とってつけたような人間ドラマは結果物語がブレてしまっているだけのように感じる。結果として夫の死を乗り越えた事にはなるのかもしれないけれど、不倫していたという親友の話も父親の言葉も「死人に口なし」を良い事に素直に肯定されすぎているように感じる。
たとえ言っていることは正しくても傷ついている娘にデリカシーのない接し方をしていた父親が全肯定されて脱出のモチベーションになるのはこの映画内だけでは説得力が描ききれていないし、亡くなってから一年塞ぎ込むほど愛していた夫よりこんな状況に陥る原因になった親友の方が主人公の中で信頼に足る理屈が無く、結局主人公にとって何が大切だったのかがよくわからなくなっているように感じた。

どうかと思う終盤の展開

終盤は本当にどうかと思うアイデアの連続で空いた口が塞がらなかった。若い女の子がハゲワシを生きたまま食べる描写とか親友の死体にスニーカー詰め込んで蹴落とす描写とか中々他の映画では観れないと思うのでドン引きしたけど楽しんだ気はする。
凡庸でつまらない展開よりは無茶苦茶だけど見た事ない描写の方が良いとは思う。感心はしないけれど。

ジャンル映画的な雑さやガタもしっかりある物語ではあるので、過度に期待しなければ満足できる。個人的には加点と減点をプラスマイナスしたら70点満点で65点くらいには落ち着いたかなと思うのだけど、映画のどの部分を評価するかという点において0点と言う人も120点と言う人もいそうな作品ではあった。

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