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リテールデジタルメディアの提供主体とタッチポイント別のメニュー

 2023年に入り、リテールメディアに対する注目度や関心の度合いが高まっています。リテールメディアの高い収益性や利益率に着目した小売業はもとより、広告出稿効果に期待するメーカー、小売業のメディアビジネスの成立を支援する広告代理店やコンサルティングファーム、アドシステムやCDP等のデータ活用基盤の開発を下支えするベンダー、リサーチや販促支援の事業者を巻き込む形で、今まさに市場が立ち上がろうとしている状況にあります。

 本noteをご覧になる方の中には、リテールメディアの事業化や基盤開発を支援する企業、あるいは、自らがリテールデータメディアやリテールフロントメディアを持ち、リテールデジタルメディア市場におけるパブリッシャーとして参入を検討している企業のご担当もいらっしゃると思います。

 そこで、今回は、現在、リテールデジタルメディア市場に対し、事業主体者や事業支援者として参画している法人や、リテールデジタルメディアとして提供されているメニュー、商材について、お客さまが購入に至るファネルに沿って分類し、将来的に、関係、関連する当事者のロゴマークをプロットすることで、カオスマップを作る際の下敷き(下絵)とするべく、タッチポイントごとに、どのような用途で使われる商材やメニューが現存しているかを、明らかにしていきたいと思います。


1.ファネル軸と用途からみたタッチポイントの分類

 お客さまが情報に触れ、来店、購入から再来店に至るまでの購買ファネルの導線上にあるタッチポイントを、以下の括りで分類します。

カオスマップの下絵(タッチポイント別の区分)

(1)来店前のタッチポイント

①認知から興味関心を獲得するために行われる広告
②検討から、店舗への誘導、販売促進のために行われる広告

(2)来店後のタッチポイント:EC

自社のECサイトやネットスーパー、BOPISや即配の注文や決済のプロセスの中で表示される広告

(3)来店後のタッチポイント:店頭

小売の店舗の入口から決済後、退店するまでのプロセス上に設置された機器等に表示される広告

(4)事業主体による区分

青色:小売名義のリテールデジタルメディア(オンサイト、オフサイト、フロント)を用いた広告
灰色:小売業以外の事業者が、顧客IDや決済データ、購買履歴を収集し、それを広告配信に活用するリテールデータメディアや、小売業の店頭環境や機器を活用して広告を配信するリテールフロントメディアを用いた広告

2.来店前タッチポイントの広告メニューと提供主体

(1)認知、興味関心の獲得

・検索広告
ヤフーやGoogleによる検索連動型広告 
・ディスプレイ広告
ヤフーのYahoo!ディスプレイ広告やGoogleによるディスプレイ広告(GDN) 

※上記は、一般的なインターネット広告で、小売業の本業との直接的な接続はなく、厳密にはリテールデジタルメディアではありませんが、購買意思決定のプロセスにおいて大きな影響を持つため、取り上げています。

・小売名義のオフサイト配信
マツキヨココカラカンパニー:「Matsukiyo Ads」 
Google広告配信メニュー
ツルハ:「ツルハグループアドプラットフォーム」 
ID-POS連動デジタル広告施策

・リテールデータメディア
フェズ:「Urumo Ads」 
購買検証が可能な広告ソリューション
ロイヤリティカタリナマーケティング:「Ponta Ads」 
Ponta提携社の購買行動をもとにしたデジタル広告

(2)検討から、店舗への誘導、販売促進

・リテールAds(メーカーとの共同販促型広告)
マツキヨココカラカンパニー:「Matsukiyo Ads」
動画広告のクリエイティブと店頭訴求内容の連動

・オウンドWEB、アプリ販促告知
セブンイレブン:「セブンイレブンアプリ」 
告知バナー/動画広告/クーポン

・アプリクーポン
食品SMやドラッグストア各社が自社アプリ上で展開するクーポン
※一部メーカー協賛

・デジタルクーポン(QRコード決済)
PayPay、d払い、auPayを利用し、対象屋号(店舗)で、対象商品購入時にポイントが付与されるデジタル販促

・レシート登録型販促
楽天:「Rakuten Pasha」 
レシート登録でポイント付与
リサーチ・アンド・イノベーション:「CODE」 
レシート登録とリサーチでポイント獲得

・スマートレシート
東芝テック:「スマートレシート」 
レシートデータを用いたマストバイキャンペーンへの応募

・デジタルチラシ
ONE COMPATH:「Shufoo!(シュフー)」 
無料のデジタルチラシ
ロコガイド:「トクバイ」 
無料チラシとクーポン

3.物販ECプラットフォームの広告メニューと提供主体

楽天:「Rakuten Promotion Platform(RPP広告)」 
クリック課金型の検索連動型広告

ヤフー:「ヤフーショッピング広告」 
ディスプレイ広告やヤフーショッピング内のリスティング広告 

4.店頭の広告メニューと提供主体

・入店
ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス」:「ignica(イグニカ)サイネージサービス」 
AIカメラを活用し、広告効果を測定可能なスクリーン

ファミリーマート:「FamilyMartVision」 
レジ上に3面設置された大画面のデジタルサイネージ

・店頭回遊

インテージ:「楽ラク!デジボード 定番長」 
リモートで動画配信をコントロールする定番商品の訴求画面

エブリー:「DELISH KITCHEN Retail Support Program」 
音声付きレシピ動画配信

・商品選択
トライアル:「スマートショッピングカート」 
クーポン配信や会計処理を行うタブレット端末付きのレジカート

・レジ前(決済)
ヴィンクス:「非接触セルフPOSシステム」 
画面の上段で広告等のメディア配信が可能なセルフPOS
※小売名義の広告商材としての実践投入手前

コンビニエンスストア各社:「POSレジ画面」 
POSレジ画面への広告

・精算後
カタリナマーケティング:「インストアターゲティングオファー」 
レジを通過したターゲットへ、購買データに基づく紙クーポンを発行

・次回来店促進
食品SMやドラッグストアが提供するオウンドアプリ上のチラシ、お買い得商品の案内、クーポン等の提供

5.まとめ 

 将来、リテールデジタルメディア市場のカオスマップの下敷きになることを企図し、ファネル軸と用途からみたタッチポイントの分類と事業主体や商材、メニューの洗い出しと整理を行ってみました。

 全ての事業主体や商材、メニューを特定できたわけではありませんが、来店前タッチポイントの広告や販促メニューは、デジタルメディア業界が立ち上がった後のインターネット広告の技術革新の延長線上に、リテールデジタルメディアが存在していることもあり、デジタル化された大量の顧客IDを持つ事業者や、メディア力を備えた出面を持つGoogleやヤフー等、広告宣伝費の獲得実績を持つ大手のプレーヤーが多いように感じます。

 一方、お客さまが店舗へ来店された後のリテールフロントメディアについては、一部の小売でPOCが進行しているものの、小売名義のメディアとして商材化されているものが少ない他、小売以外の事業主体者による商材で、メディアとして確立している商材は少なく、現時点では、趨勢が見えておらず、これからの成長領域だと理解できます。

 今後、小売業のリテールメディアビジネスの成立を支援する法人は、複数の小売の出面と購買履歴データを束ねた上で、効果測定の手法を標準化し、流通を横断するスクリーンへと換えることで、メディアとしての存在感を高め、メーカーのお財布の中でも、マーケティング部門が持つ広告宣伝費を確保しに行く、というアプローチが、一つの方向性であり、リテールメディア市場を拡大させるためのポイントになりそうです。

 一方、小売以外の事業主体者(パブリッシャー)が取扱うメディアについては、前述した、複数小売のメディアやスクリーンを束ね、流通横断で出稿が可能になった状態のリテールデジタルメディアを超える媒体力を備えることができそうか、慎重に見極める必要があり、ここが参入要否や投資判断の際のポイントになりそうです。

 なお、小売以外の事業主体者が取扱うメディアのうち、小売の店頭に機器等を設置し、使わせてもらう形を採るリテールフロントメディアは、小売のIDとの連携、広告効果を計るための購買履歴の活用、配荷や在庫情報との連動に加え、小売側の営業政策や店頭の販促方針との同期が求められる等、何かとハードルが高いことから、この先、存在感あるメディアとして認められるまでに時間を要しそうです。

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