少年少女の等身大の戦争物語!WEBTOON「水平線」
WEBTOON「ザ・ボクサー」が素晴らしい傑作だったので、今回取り上げるのはJH先生の初期作品(2016)「水平線」です。全20話とWEBTOONではかなり短い話数です。戦争と奇病で人類が滅亡した世界で生き抜く少年と少女の物語。克明に描かれた死体描写や奇病の流行等は偶然にも今の時代と重なりより重く感じます。
特徴的なのは、舞台となる世界をいつの時代のどの国で起きた戦争なのか明確に設定していない事です。現代であれ、過去であれ、近未来であれ、戦争を題材とした作品には時代考証等詳細迄設定に拘っている作品が多く見受けられます。またどんな種類の兵器が使われているのかミリタリーマニア的な要素や世界観設定にも拘ります。自分も設定厨なのでそれを読むのが楽しみなポイントでもあります。漫画で言うと代表的な作品は「攻殻機動隊」や「銃夢」等、近未来の舞台設定でいうと「機動警察パトレイバー」の様な作品が思い浮かびます。過去の戦争を描いた「この世界の片隅に」もマニア的視点とは違いますが作者のこうの史代先生はかなり細かく取材をされているのが作品の隅々から伝わります。
「水平線」でそれらが描かれないのはJH先生が作品のテーマにしているものが具体的な「戦争」の史実ではなく概念としての「戦争」だからなのではないかと推測します。この物語の主人公の少年と少女には固有の名前も無く匿名の一戦争被害者として描かれます。読者が知りうる世界の情報は主人公の少年の目から見た世界のみで、それ以外の情報は与えられません。荒廃した世界を冒険していく少年は1人の同じ境遇の少女と出会い2人は新しい世界を求めて歩き出します。そこで出会う人間達が彼等が知る世界の全てでありその環境を2人は必死で生き抜きます。全編通してこの世界が良い方向に変わる事はありません。世界に対する深い諦念が通底しており「ぼくたちは世界を変えることができない」中でも小さな希望を見つけ生きる事を選んでしまう人間の業が描写されます。
「ザ・ボクサー」でも、後半はかなり生と死の問題にまで踏み込んでいくのですが、「水平線」を読んでいるとJH先生は作家として当初からその問題意識を持っていて、むしろ「ザ・ボクサー」はかなりエンタメ要素を入れた形でバランスを取った事で世界的なヒット作になったんだなという事が分かります。
意識的にだと思いますがこの2作には同じ台詞が出てきます。
「この世界はどうしてこんな形なんでしょう?」
WEBTOONはスナックカルチャーだ、暇つぶしに通勤通学途中に読むものだ、と言われてそれを間に受ける方も多い気もしますが、JH先生の作品は明らかにそれとは違いますし、新しい表現やテーマ性のあるドラマを描こうとしています。プロの書評家に比べるとあまり漫画作品に明るく無いのですが、漫画、映画、ドラマ等を含めた最近の作品で最も力強いメッセージを感じた作品でした。
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