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モノづくりの民主化にむけて ~みんながメイカーになるための「遊び」と「学び」の融合~

フリー《無料》からお金を生み出す「フリーミアム・モデル」の提唱者として時の人となったクリス・アンダーソンが『MAKERS ― 21世紀の産業革命が始まる』を書いたのは、2012年のことでした。


メイカーたちの現在

- ウェブ世界が現実世界と交わる
- 世界中のガレージがオンライン化する
- 3Dプリンタなどを使ったデジタル製造技術が「第三の産業革命」を引き起こす

これらはいずれも、クリス・アンダーソンがすぐに実現するだろうと考えた未来です。

本の刊行から約10年。少しずつですが彼のイメージした未来は訪れつつあります。3Dプリンタやカッティンングマシンはずいぶん安くなりました。人の多く集まるエリアにはファブラボができ、モノづくりを楽しむ人々が交流をしています。そして、メイカーたちの祭典 Maker Faire は、年々その規模を拡大するとともに、京都、大垣、山口、仙台でも開催地を広げています。

しかし、SNSなどでの反応をみるに、どこかまだ「都会の意識の高い人たちのじゃれあい」といった冷ややかなまなざしを向けられているようにも感じられます。

製造(モノづくり)は資本家だけのものではなくなった。けれども、民主化と呼ぶにはまだ程遠い。それが、2021年現在の正当な評価ではないかと思います。


ゲーム界の大物が降臨

いまからさかのぼること3年前の2018年春。ひとつの大きな話題が生まれました。メイカー界に予想外の方向から殴り込みをかけてくる大型プレイヤーが登場したのです。

そうです、Nintendo です。

つくる、あそぶ、わかる、『Nintendo Labo』の一連の体験は、段ボール製の工作キットを組み立て、「ピアノ」や「つりざお」「バイク」「ロボット」など「Toy-Con(トイコン)」と呼ばれるコントローラーを自分の手でつくるところから始まります。

工作とビデオゲームが融合し、Nintendo Laboの「Toy-Con(トイコン)」とNintendo Switchの「Joy-Con(ジョイコン)」が共鳴し合うことで生まれる新しいあそびにご期待ください


キング・オブ・廃材であるダンボールで立体造形をつくり、 Nintendo Switch でプログラミングして動かしてしまおうという斬新な発想。これがSTEM / STEAM 教育の潮流を気にかけながらも二の足を踏んでいた全国の教育熱心な親御さんの心をくすぐったのです。

ダンボールは比較的強い素材。と言っても、紙は紙。遊んでいるうちに傷む。壊れる。それがどうした? ちゃんと中身がわかるようになっているだろう? 機構の部分だって丸見えだ。特別な素材なんて必要ない。ハサミとテープとダンボール、それから、輪ゴムさえあればいい。ユー、自分でつくっちゃいなよ!という姿勢。強い。

しかも、ダンボール工作では刺さらないかもしれないタイプの子どもたちのハートをもつかもうと「デコるセット(マスキングテープ・ステンシルシート・シール)」まで同時発売する念の入れよう。

発売と同時に、工作を楽しむ子どもや大人が自分の作品を次々と SNS にアップする動きがみられたのが印象的でした。

子どもたちの遊びが変わる。
モノづくりの民主化が本当に起こる。

そんな手応えを感じたのを覚えています。


しかしながら、肝心の販売実績はというと、任天堂の予想を下回る結果に。

「これまでにないタイプだけにユーザーに受け入れられるのに時間がかかっているのではないか」

当時メディアからは Switch 本体の販売数伸び悩びにもつながった主因として名指しされます。

新しい事業が大きく育つ前に壁にぶつかり撤退してしまう "死の谷" 。その "死の谷" を超えられないまま、子どもたちの間に生まれつつあったメイカームーブメントごと葬り去られてしまうのか。

なにを隠そう、わが家においても、最初のセットをつくるところまでは熱狂していましたが、その先、自分たちのつくりたいようなものを自由につくるところまではいかなかったのです。

加えて立体造形であるダンボールは都会の狭い住宅では場所をとりすぎました。専用のおかたづけボックスも発売されていなかった当時、つくられた工作物は部屋の隅に山積みにされ、ホコリをかぶり、見かねてしまい込んだら最後、再び日の目を見ることはなかったのです。目や手の届くところにない楽しみは見つけてもらえないものです。

無題


熱狂の後

その後、『Nintendo Labo』発売当初のような大きな反響はありません。だからといって、Nintendo がゲームとモノづくりの融合を諦めたのかというと、それもまた違います。

翌2019年春には VR キットを発売。


「#ラボ作品コンテスト」も開催し、大人子どもを問わず、おもしろい作品を次々生み出しています。

▶ 第一回 #ラボ作品コンテスト
▶ 第二回 #ラボ作品コンテスト
▶ 第三回 #ラボ作品コンテスト


さらに、2020年秋には、シリーズこそ違いますが、現実空間との接点を作る『マリオカート ライブ ホームサーキット』を販売開始。


最先端の科学技術を遊びを通して自然と学べるよう、さまざまな工夫がちりばめられています。

インターネットやビデオゲームを依存性のあるただの遊びとしてその利用に制限をかけた香川県議会のみなさま、はたしてこれは遊びでしょうか???


「作ることで学ぶ」をより身近に

後に MIT メディアラボとなる MIT 建築機械グループ認識学習研究班を創設したシーモア・パパート教授は、生前、心理学者ジャン・ピアジェの構成主義をベースに構築主義(コンストラクショニズム)という学習法を考案しました。

手と頭は連携を取り、相互にやり取りをしながら、新しい知識を構築していく

単に、頭だけで考えていても、新しい知識は構築できない、「何かをつくることで学ぶ」という考え方で、いまや世界中のIT教育や科学分野の研究などに取り入れられています。

人は「モノを使って考える」あるいは「手を動かして考える」ときにこそ、創造的なエネルギー、創造的な思考、モノの見方が引き出されるという理論。そう、子どもたちの「遊び」は「学び」そのものなのです。


子どもたちに人気の Minecraft や Scratch(プログラミング)など、どこかヴァーチャルな世界、コンピュータの中に閉じがちだったこの分野での「遊び」=「学び」を、一気にリアルな泥臭いアナログ工作世界に引き戻し、原初的なハンズオン(体験学習)に立ち返らせてくれた『Nintendo Labo』。

それは同時に、ゲーム機というみんなが身近に感じている遊び道具と融合させることで、よく言えば高尚な、悪く言えばどこか高慢ちきにも感じる、STEM / STEAM教育の裾野を一気に広げるきっかけにもなった。個人的にはそう捉えています。


任天堂がそこまでのメッセージを込めて『Nintendo Labo』シリーズをリリースしているかと言えばそんなことはないかもしれません。

より深く、より楽しく "遊び尽くす" ためには、という、世界的玩具メーカーとしての矜持を突き詰めた結果として、副産物的にもたらされる/もたらされた結果なんじゃないかとも思えます。

子どもはいつだって大人の思惑とは別に楽しみを見つけて遊び倒すことのできる存在です。そうした可能性のゆらぎをもってモノづくりを受け止め、開発者でさえも思いつかなかったような「遊び」=「学び」の世界がこの先も広がっていってくれることを願っています。

そう、クリス・アンダーソンが想像した未来のように。

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