一月と六月、四月と十月
有山達也さんは、大好きなデザイナーのひとりだ。
(あと葛西薫さんと大島依提亜さんも)
職業柄、毎日たくさんの本を見ているが、「この本のデザイン有山さんぽいなぁ」と思うと結構な確率で当たるのは我ながらすごいと思う。
その有山さんが書かれた本がある。『装幀のなかの絵』という本だ。出版は「港の人」という地方小出版なので、あまり普通の本屋さんには置いていないのかもしれない。わたしがこの本に出会ったのも、旅先である鳥取の小さなお店だった。
セカアカ生なら有山達也さんといえば、“岡戸絹枝先生”と“クウネル”を思い浮かべるに違いない。もう既にこのことを何かに書いている方がいたら申し訳ないが、この本には授業で岡戸さんが話された、有山さんとのクウネルをめぐる物語のアナザーサイドが記述されているのだ。しかも、後書きはなんと岡戸絹枝さんなのである。
わたしがこのことに気が付いたのは、つい最近だ。この本を持っていることはもちろん覚えていたけれど、内容をきちんと覚えていなかった。そもそも全部ちゃんと読んでいなかったかもしれない。
この本に出会ったのは6、7年前。鳥取・境港にある『一月と六月』というお店だ。しかし事前に調べて行ったのか、たまたま出会ったのかすら覚えていない。水木しげる記念館へ行った後だったのでもう夕方で、カフェの時間は終わっていたような気がする。本は、文庫と一般書の間くらいの大きさで、1200円(本体)。お店の人に「結構するね」と言われたことはぼんやり覚えている。
旅のお供にしようと思って買ったのだが、その後にも別の本を買ったこと、また、その旅行中に楽しくないメールのやりとりがあったこともあり、記憶から抹消しようとしたのだろうか。先日、年末の大掃除をしているときにパラパラと中をみて、岡戸さんのお名前を見つけ、「あー!」と思ったという次第だ。
本の内容は、タイトル通り有山さんがこれまで手掛けてきた本の装幀や、本作りについて書かれている。改めて読み返すと、高山なおみさんの『じゃがいも』の本について、集英社文庫の装幀についての章が面白かった。
特に集英社文庫はいつも何気なく手に取っているもので、まさかこのパターンを作られたのが有山さんだったとは!という驚きが大きい。因みにそのパターンとは、文庫の背の色や、フォント、文字の大きさ、出版社のコードや番号などをどのようにレイアウトし、またタイトルも副題がついている場合、著者が二人いる場合…などの様々なルールを考えるということだ。集英社だけでなく、文庫の装幀パターンを作るのがいかに大変なのかということが、素人ながら垣間知ることができてとても興味深かった。これから本屋さんで文庫を見るとき、今まで以上にじっくりと見てしまいそうだ。
話が逸れてしまったが、セカアカの授業を受けたわたしにとって肝心なのが岡戸絹枝さんとクウネルのお話だ。どこの章とは書かないし、内容も書かないが、クウネルについては、雑誌キャラクターの「クウネルくん」の誕生秘話(坂崎千春さんのラフスケッチの写真有り)が。そして岡戸さんとのやりとりは、クウネル1号の表紙写真についての「あの話」が出てくる。有山さんはこんな風に思っていたんだ…!とわくわくせずにはいられない。また、有山さんから見た岡戸さんのプロフェッショナルな仕事ぶりが、いかにクウネルが手間暇かけて丁寧に作られていたのかということを物語っている。
思いがけず長文になってしまったが、“岡戸先生“の授業を受けた皆さんに、是非とも手に取っていただきたい一冊だ。わたしも、授業を受ける前にきちんと読んでいればなぁと少し後悔している。
【追記】
タイトルにつけた、「一月と六月、四月と十月」だが、「一月と六月」は本を買ったお店の名前。そして「四月と十月」は、この本のレーベル名が「四月と十月文庫」だということから。
わたしは「一月と六月」で「四月と十月文庫」を買ったということだ。なんかよく分からないけど、こんなことある!?と自分でもおかしくて笑ってしまった。嘘のような、本当の話だ。買った当時は何も気づいていなかったと思う。お店の名前もちゃんと確認してなかったし、本もちゃんと見てなかった。でも、このお店で出会うべくして出会った本だったのかもしれないと今は思う。
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