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社会を知りたい②経済成長とAI失業の話

社会を知りたい①の続き。経済や国の政策の観点から、人工知能(AI)が現在ある多くの仕事を代替していく社会について要点を。今回読んだ本はこちら。

前回、AIそのものについてと、AIがもたらす技術的失業について要点をまとめた。ただ、AIがいきなり全ての仕事を担うわけではなく、段階的(特化型AI時代:2030年以前 → 汎用AI時代:2030年以降)に代替していく。今回は、現在すでにある特化型AIがメインで、ちょっと汎用AIも出始めた境目である、2030年あたりの技術的失業についてまとめていく。

今回の要点として、今後取るべき政策は、技術の研究開発であるイノベーション政策と、雇用を増やし、マネーストック(市中に出回るお金の総量)を増やすことであるマクロ経済政策である。現状の日本の経済と、AIが技術的失業を少なからず起こす未来において、このふたつが重要になってくる。

現状の日本経済

現状というけど、じゃあ今の日本経済はどうなってるの?というところから。日本はここ20年ほどの実質GDP成長率は平均1%ほどで、他の先進国と比べて低い経済成長率できている。バブル崩壊後からの続くこの不況は「失われた20(30)年」と呼ばれている。この失われた20年を脱して、経済成長するためにはどうしたら良いのだろうか。

国の経済はある程度のお金(資本)があれば、先進国のレベルまでは成長する。だから、発展途上国はGDP成長率10%なんてざらにあるんだけど、先進国は資本があるだけでは成長しづらい。なぜなら、経済成長のために効率的なものはほぼ作ってしまっているため、現在より大きく生産率を上げていくためには、成長のための投資対象が必要になってくる。その先進国にとってその投資対象を作り出すのが技術力だ。

先進国の中でも、日本は少子高齢化が進み生産年齢人口割合が減り続けているため、順当にこのまま行くと生産性は落ちていく。他の先進国に比べて条件は厳しいが、成長できなければ衰退していくことになる。

政策としての研究開発

技術力が投資対象を生むってどういうこと?だけど、わかりやすく先進国が飛躍的な経済成長するときには産業革命が起きている(当然それ以外にもあるけど)。蒸気機関、内燃機関・電気モーター、パソコン・インターネットといったもの。なぜこれらが飛躍的な成長に関わるのかというと、たくさんの応用が利く「汎用目的技術(GPT)」であるからだ。

例えばインターネットを使った、POSレジ、スマートフォン、アプリ、クラウドソフトなど、インターネットが様々な分野で応用され各種産業の生産性を劇的に上げる。このようなGPTが技術力によって開発されることで経済成長は加速する。

しかし、現在インターネットも大方のアイディアが出し尽くされ、よほどの目新しさやシステムが無ければ産業として生産性を飛躍的に上げることは難しくなっている。だから、政府は汎用AIのような次の新しいGPTを作り出すための、研究開発を促す「イノベーション政策」を増やすことが重要である。

(余談。イノベーション政策とセットでよく語られる、産業を育てるための「産業政策」については、産業の成長に伴って効率化や節約も起こる。そのため本書では、後述する雇用の需要を不足させてしまう可能性があるので、政府が行う必要はないとしている。)

AIによる技術的失業の種類

AIが技術的失業を生み出すことはほぼ間違いはないだろうけど、これが長くなるかはわからない。というのも、同じように今までの産業革命でも技術的失業が起こってきているが、最終的には違う仕事が発生して、働く場所は変われど、人々は職を再び手に入れている。

2030年以降の汎用AI全盛期時代にはこの法則は当てはまらないかもしれないが、特化型AIがメインで汎用AIがもしかしたらちょっとだけある、くらいの社会では当てはまるだろう。

技術的失業には
① 摩擦的失業:労働移動のための時間がかかるために発生する失業
② 需要不足による失業:労働移動する先が無いために起こる失業
の2種類がある。

つまり、失業者が職探しをする期間と、そもそも職があるかどうかというもの。では、いざAIによって両方の技術的失業がやってきたときに、どう政策を打ち出し、対策していけばいいのか。

技術的失業を迎え撃つ政策

どう対策するかと言えば、いい例がある。2008年のリーマンショックだ。アメリカではリーマンショック後に10%ほどの失業率になったが、5年ほどで5%まで減らすことができた。その失業率を減らす大きな要因となったのがマクロ経済政策だ。

マクロ経済政策は一般的に景気をあげるための政策で、財政政策と金融政策がある。財政政策は橋や道路などの建設といった公共事業に対する投資を増やすこと。金融政策は中央銀行が世の中に出回るお金の量を操作する政策のことを指す。

本書では対策の具体的内容として、公共事業によって雇用を生み出し、市中にお金を増やしてマネーストックを生むことで、消費の雰囲気を作り出すことを推奨している。お金がいっぱいあったら使おうと思うし、売上高ければお店の従業員増やそうとする(雇用の増大)、ということ。そのため上記②の労働需要を政策によって、早期解消が可能であるとしている。

そして、AIによって供給するものの量も更に増えるため、その分需要を作っていかなければ均衡がとれずに供給が減る。簡単に言うと、買う人いないともっと作れても作らなくなる。つまり、経済成長するには、実際に富を増大させるために労働量と消費を増やしていく。そういう意味では、供給の量と均衡が取れるまでは、マネーストックを増やす政策であるヘリコプターマネーのような、直接国庫からお金を家計にとどけることも効果的では、としている。


今回はここまで(多分③で終わる)。次回は、2030年以降の汎用AI社会、資本主義が無くなり、そのときどう政策を行うか。そして、私たちはどう考えて生きていくか。について。

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追記(という名の所感):ヘリコプターマネーには、有名なものに地域振興券や定額給付金がある。別名バラマキ政策と呼ぶ人もいる賛否のある政策だけど、今までの結果として貯蓄や生活費に多く回って、あまり消費が増えなかった。マネーストックを増やす意味ではその通りだと思うけど、その前提として精神性とか、文化とか、お金の知識とか、そういった消費への動機が必要だと思う。

例えばお金を持っている人がいたとして、その人が楽観的であればお金を使おうと思う場面でも、悲観的であればお金を貯蓄に回すと思う。社会不安が大きければよりそうなるだろうし、文化として貯蓄を行う人が多い日本では、貯蓄を選ぶ人が多い。投資やインフレを知っている人は、お金を違う形に変えようとするかもしれない。もしヘリコプターマネーを導入するなら、これらの前提からなんだろうなと思う。

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