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ウラジミール・モトゥイリ『砂漠の白い太陽』白い砂漠と青い海、或いはボルシチ・ウエスタン

またもや大傑作。ロシア製の西部劇ならぬ"東部劇"或いはボルシチ・ウエスタンとでも呼ぶべきか。そのジャンルではミハルコフ『光と影のバラード』を観た覚えがある気もするが、話が入り組みすぎていて全く理解できなかったことだけはよく覚えている。本作品はブレジネフ期のスターリン懐古時代に製作された作品であり、経済も停滞していた時期に国民が渇望した"ソビエト的英雄"像に主人公スーホフが合致したらしい。可愛い嫁さんに"ごめん、帰るの、ちょっと遅れるわ…"と呟きながら押し付けられた無理そうな仕事を淡々と完遂するあたりが、本当のカッコいい男という感じだろうか。真っ白な砂漠に対する緑の大地と赤い嫁さんのスカーフが愛国心を唆る気もするが、ソ連のみならず全ての国に可換である点において優れているように思える。

愛する妻カタリーナ・マトヴェーエヴナの元に帰るべく、アジアの砂漠を通過しているスーホフ。偶然通りかかった場所に埋められていたサイドという男を助け、警邏隊に"黒いアブドゥラ"という悪党の保護された9人の妻たちを要塞まで護衛する業務を押し付けられる。なんともワクワクする展開。

砂漠の切り取り方が滅茶苦茶上手いのはさて置くとしても、砂漠から唐突に海が現れるシーンに心震える。真っ白な砂漠に唐突に色が出てくる瞬間のカメラワークがカッコいいのなんの。白い砂漠を魅せるため、敢えてカメラを下に向けて空を映さず、逆に対象との距離感を浮き彫りにするカメラワークが正に天才的。

外見はナヨっとしたスーホフであるが、銃を向けられてもあっさり解決して"やれやれだぜ"という感じに流すあたりから熟練ガンマンの風格が漂い始める。要塞に残った9人の妻たちを"黒いアブドゥラ"から守るため、スーホフは活動を開始するが、サイドは自身を埋めた男に復讐するために離脱、警邏隊の若い巡査ペトルカは経験不足で使い物にならないくせに妻の一人グルチャタイに惚れて更に使えない。9人の妻たちもスーホフに惚れたグルチャタイ以外の8人はあまり協力的ではなく、スーホフは孤軍奮闘を迫られる。最初の戦闘でペトルカとグルチャタイが死亡し、二度目の戦闘に一人で備える絶望感がロングショットで切り取られる。これが滅茶苦茶キマっているんだよ。

結局石油プラントみたいなとこに隠れるスーホフと8人の妻たち。彼らを燻り出すために石油のバケツリレーをするアブドゥラ一味。動けないスーホフに代わって、街の外れの元税関建物で暮らす老人ヴェレシャーギンとサイドの協力も得て解決する。

敵は別にいいんだけど味方も死にまくる本作品にスタジオ幹部は難色を示したらしいが、偶然にもブレジネフが気に入ったおかげで公開され、1970年最大のヒット作としてのべ5000万人を動員したらしい。5000万人ってすごくない?

・作品データ

原題:Beloe solntse pustyni (White Sun of the Desert)
上映時間:84分
監督:Vladimir Motyl
公開:1970年3月30日(ソ連)

・評価:100点

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