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Chuko & Arie Esiri『Eyimofe (This Is My Desire)』ナイジェリア、海の向こうの理想郷を目指して

傑作。"移民映画"というジャンルがあるとすれば、多くの場合渡った先の国での生活を描いているが、本作品は様々な事情によって渡ろうとしたのに渡れなかった二人の人物を描いている。第一部"スペイン"では、スペインへ渡る直前に妹一家を一酸化炭素中毒で亡くした技師の男モフェを描いている。彼の物語は工場の心臓部でありながら、あまりにも複雑に絡み合った回路基板で幕を開ける。これがホントのスパゲティコードってか(多分本人が作ったわけではなさそう)。まるで彼の人生を絡め取る蜘蛛の巣のように、或いは彼の直面する複雑怪奇なシステムのように、モフェの前に立ちはだかる。工場の機械や電気系統は全てその基盤に集約されているようで、頻繁に故障してはモフェが修理してギリギリの状態で生きながらえているのだが、会社側は彼を"エンジニア"と名前すら呼ばず、必要な部品も中々注文しないなど蔑ろにし続ける。そんな矢先、同居している妹と二人の息子が一酸化炭素中毒で亡くなってしまう。すると、遺体の引き取りから銀行口座解約と引き出しに至るまで、ひたすら金がかかることに気が付く。第二部"イタリア"では、昼間は美容師、夜間はバーテンダーとして働きながら、妊娠した妹とともにイタリア移住を目指す女性ローザを描いている。働けど働けど資金は足りず、妹は非協力的で、変態大家は何度断ってもめげずに言い寄ってきて、職場のバーで知り合ったアメリカ人駐在員は彼女に幻滅しか与えない。

二人の物語は病院での最も苦しい瞬間と、ある夜の最も優しい瞬間に交差し、夢破れて故郷に残ったすべての人々を代表させている。どんな瞬間であれ光の柔らかさと色の鮮やかさによって、一定の距離を守りながらも温かい眼差しを向けるカメラによって、本作品はその他多くの同様な作品を抑えて特異な存在感を放っていると言えるだろう(ちなみに、撮影監督はデア・クルムベガシュヴィリ『Beginning』のArseni Khachaturanだった)。もう一点、特異な点を挙げるとするならば、本作品は残った人々のその後を描いていることだろう。彼らが移住資金を得るために自ら開拓していった道の果に、これまで切実に追い求めてきた未来が国内でも実現可能だったことに気が付くのである。これはモフェ限定の話で、ローザには適用されないのが辛い部分ではあるが、ただ破れて散っていくだけではない(という当たり前の)ことを思い出させてくれる点で興味深い。これは、一つの解釈であり、まだ渡西を諦めていない、或いはその両方であるとも取れるのがまた上手い。

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・作品データ

原題:Eyimofe (This Is My Desire)
上映時間:116分
監督:Chuko Esiri, Arie Esiri
製作:2020年(ナイジェリア)

・評価:80点

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