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アンドレ・デルヴォー『Woman Between Wolf and Dog』ベルギーの知られざる二次大戦

ベルギーのシネマテーク社から出ているDVDはどれもジャケ写がカッコいいんだが、欠点は多くが廃盤になっているのとアンドレ・デルヴォーくらいしか目玉商品がないという二点である。個人的には評価したいが、セールス面では致命的だろう。察しのいい人はだいたい分かったと思うが、勿論マリー=クリスティーヌ・バロー目当てである。邦題はいつどこで上映されたか知らないが『狼と犬の間の女』とされている。

1940年のアントワープ。まだ戦線がこちらに来ていないことをいいことに、誰も戦争が国にやって来るとは思っていないベルギーの大都市にて。主人公リーヴはフラマン人ピアニストで理想主義者のアドリアーンと結婚する。8月になってベルギーは占領され、アドリアーンはナチスに傾倒し始める。そして、新妻を残してドイツへ行ってしまう。金ばかりは送られてくるので生活には困らないが、一人で暮らすには屋敷がデカすぎた。住民たちも夫がナチに入ったリーヴを歓迎したがらない。

アドリアーンが戻らないまま2年が経ったある日、フランソワというレジスタンスの男を成り行きで匿うことになる。元からナチスを良いようには思っていなかったリーヴは、次第にフランソワと打ち解けていく。彼に協力しつつ、コラボの肉屋の店主と戦況について会話しつつ、終戦を迎えたリーヴ。ナチ党員の妻でありながらフランソワを助けたことでコラボとは見なされなかったリーヴ。レジスタンスに取り囲まれて、二人の娘を殺して自殺した肉屋の死体と、頭を刈られて練り歩かされているコラボの女性を、レジスタンスの車に乗りながら眺めるしかないリーヴ。

コラボとレジスタンスの両論併記によって、あまり語られることのなかった二次大戦期のベルギーの歴史を圧縮した、ある種の寓話である。アドリアーンは冒頭から終戦までほぼ出てこないし、フランソワは活動してるか怪しいくらい引くほどリーヴの家にいる。彼らが主体となってどこかに動くシーンなどない。つまり、徹底的に市民の目線で闇の時代を追っているのだ。戦争も音が聞こえる程度で流されて、あまりにも味気ないが、それが本当なのかもしれない…ってことで良いのか…?

また、この時代の偽善にも少し触れていて、レジスタンスでもなかったのに戦後我が物顔でコラボを罵る人々や、自給自足の生活が可能な田舎の人間はリーヴには野菜しか出さずに困窮アピールをするくせに、彼女が変えると犬ですら肉にありつけているのだ。ということを指摘していた。

戦争が終わり、リーヴは良くしてくれたフランソワを呆気なく捨て去り、捕虜収容所に送られたアドリアーンの帰りを待つ。刑期を終えたアドリアーンは出所して、アンティーク家具の店を始める。フランソワも顧客の確保なんかを手伝ってくれたようだ。二人の間には子供も産まれるが、溝はむしろ広がって、結局はお別れすることになる。

全編を通してシーンの繋ぎ方が結構強引で、しかも挿話が筋を追うことに終止しているので、リーヴの感情の機微が全く読み取れない上に、挿話が有機的に繋がることがほぼないので、あまりに一本道で味気ない。映画そのものに感情がないと言っても過言ではないだろう。確かに100分で15年の歳月を描き、コラボ、レジスタンス、終戦、終戦後のエピソードをてんこ盛りにした上で語るのは至難の業だが、デルヴォーは完全に失敗していた。

しかも、挿話がバラバラしているので、登場人物たちが有機的に衝突したり結びついたりすることもなく、前半のフランソワと後半のアドリアーンは本当に消費されただけだった。戦後の描写なんかどうでもいいから、終戦をラストに持ってくればもっと丁寧に描けたんじゃないか。

あと、こんなこと言っちゃいけないのかもしれないが、一番理想的な生き延び方なんじゃないか。コラボの美しい妻として、ドイツから金を貰って、肉屋からはサービスして貰って、レジスタンスを助けたからコラボ認定もされずに戦中期の生活をそのまま継続する。寓話にするために人間関係を圧縮しすぎて、ちょっと出来すぎた感じになっているのは否めない。

女優で作品を選ぶと地雷を踏むのはいつものことなんだが、今回も酷いものだった。残念。ポール・バーホーヴェン『女王陛下の戦士』と良い対になっているだろう。同作は一市民がレジスタンスに加入して暴れまわるオランダのアクション映画であり、本作品とは舞台を近くしていながらも、描写は180度違っている。そしてなにより、ルトガー・ハウアーがどちらにも出ている。

・作品データ

原題:Een vrouw tussen hond en wolf
上映時間:111分
監督:André Delvaux
公開:1979年5月3日(ベルギー)

・評価:30点

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