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リタ・アゼヴェード・ゴメス『The Sound of the Shaking Earth』絵画は語らない詩、詩は見えない絵画

大傑作。ある作家が、自身の書いている小説の二転三転する内容についての構想を友人たちに語っていく。周りを沼で囲まれてた土地で暮らし続け、そこから出たことがない男と釣りをするが永久に魚を捕まえられない水夫。前者は後にナサニエル・ホーソーン『ウェイクフィールド』のように、友人との旅行をブッチして友人宅の隣にあるホテルに滞在を続ける作家本人をモデルにしているため、小説の内容が二転三転する中で作家と登場人物の存在が同化していく。後者は作家の友人シプリアーノをモデルにしているが、彼は四人の子供の良き父親であり、家族仲も良好なので孤独ではなく、水夫でもない。だからこそ、親切なシプリアーノに対して嫉妬と負い目を感じていて、直接彼に会おうとはしていない。水夫はルシアノと名付けられ、作家の述べる言葉の上では"説明できないが絶対に魚を捕まえられない"人物として登場するが、後に実体を得て港町を放浪するようになると、確かに多少無気力ではあるが、当初の不条理劇の登場人物のような設定は影を潜めている。

作家が語る場面の多くは室内であり、彼の友人イザベルやジャン=ピエールも含めて全員死んだような顔をしているとこに、どことなくダニエル・シュミット諸作を思い出す。後のゴメス作品、及び同時代のモンテイロ、ヴィラヴェルデなどの作品を担当したアカシオ・デ・アルメイダの浮遊するようなカメラワークはどれも素晴らしく、時間が止まって死んでしまったような雰囲気と絶妙にマッチしている。特に庭でジャン=ピエールと話すシーンで、庭園の回廊が無限に続いているかのような錯覚に陥らせるショットが特に印象的。逆にルシアノの挿話は光に満ちていて、水夫として立ち寄った港町での少女との邂逅は、刹那的なメロドラマが醸造されている。

絵画は語らない詩であり、詩は見えない絵画である。この引用句を凌駕するかのように、詩と絵画の両方の側面を持った驚異的作品で、だからこそ"映画"として忘れがたいものになっているのだろう。

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・作品データ

原題:O Som da Terra a Tremer
上映時間:93分
監督:Rita Azevedo Gomes
製作:1990年(ポルトガル)

・評価:99点

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