20230709

 晴れて暑い一日。J.D.サリンジャーの所属する出版エージェントに勤めていたジョアンナ・ラコフが、その日々を書き綴った自叙伝『サリンジャーと過ごした日々』(柏書房)を原作とした、フィリップ・ファラルド監督の映画『マイ・ニューヨーク・ダイアリー』を観た。『ライ麦畑で捕まえて』で世界的に知られるサリンジャーだが、一九六五年に作家業を引退して以来、完全に表舞台から姿を消した。舞台は九〇年代のニューヨークで、作家を目指していたジョアンナは西海岸から離れ、出版業界に就職して夢を追いかけようと移り住む。出版エージェントに就職が決まった彼女だったが、待ち受けていたのはサリンジャーに届くファンレターを読んで破棄し、定型文を返送する地味な事務作業だった。小説家を目指す男と同棲し、ファンレターの熱意に心動かされた彼女は徐々に自分の現状に不安を募らせていく。出版エージェントの上司役をシガニー・ウィーバー、ジョアンナ役をマーガレット・クアリーが演じている。マーガレットがたいへん素晴らしかった。旧〇年代らしいシティーガールのスタイルがめちゃくちゃキマッていた。サリンジャーの「毎日書かなきゃダメだ」という言葉は、毎日机に向かうことを信条とした夏目漱石のそれと重なり、心動かされた。何より、送られてきた原稿を読み、どのような客層に受けるかを検討し、向いた出版社を探すというエージェントの仕組みは日本にも必要な気がする。

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