20240101

 〝Perfect Day〟ルー・リードの低くてどこか柔らかな歌声が陽だまりを思わせる名曲だ。初夢のことは全く覚えていない。朝から快晴ではあったが、風が強くて冷たかった。正月には恒例となった映画鑑賞。今年二〇二四年の初映画はヴィム・ヴェンダース監督の『PERFECT DAYS』だった。渋谷駅で降りて、地下道を歩き直通となっている出口からエスカレーターでTOHOシネマズ渋谷のビルを上がる。毎年一緒に映画を鑑賞しているI氏がチケットを手渡しつつ「明けましておめでとうございます」と言ったが、わたしは最初何か言ったのか聞き返そうと、口を開きかけたが、今日が元旦であることを思い出して「あけましておめでとうございます」と会釈した。どこか、正月と渋谷の雑踏がかみ合わない感覚があった。エレベーターで最上階まで上がってスクリーン室に入る前でお年玉と称し、グルメデリバリーアプリの金券が配られていた。客席はほぼ満席だった。正月にはやることもないし、映画を観る人も多いのだろう。役所広司演じるトイレ清掃員を日々を丹念に描く。家には最低限の家具、寝る前に文庫本を読んで、朝夜明け前に起きて仕事を午後までこなし、休憩時間に神社の木をフィルムカメラに収め、帰って銭湯に行き、行きつけの居酒屋で一杯ひっかけて帰る……規則正しくミニマリズムに生きる老年の男。ヴェンダースらしい世界観で、映画を彩る六〇~七〇年代ロックミュージックもセンスが良く、まさにアートといった趣きだった。ただ、やはり物語としてはあまりにも日本の現実とは乖離しているとしか思えず入り込むことはできなかった。
 映画を観た後は、代々木八幡宮で初参りをした。まさに、『PERFECT DAYS』のロケ地として使われたトイレや役所広司が座ったベンチなどがある一帯で、聖地めぐりといった感じだった。子どもの書が参道脇には並べられていて、趣きがあった。すっかり日が落ちて、暗がりで豆電球の明かりが幻想的に神社を照らしていて、豚汁やたこ焼きや串刺し団子などの屋台から食欲をそそる匂いが漂っていた。本殿で手を合わせたあとは、おみくじを引いた。初詣のあと、近所の居酒屋に入りI氏とこれからの人生などについて日本酒を飲みながら話した。お互いに厄年になり、そういうことを真剣に考えなければいけないと考えていたこともある。最終的には健康に越したことはないという結論にしかならなかったわけだが、良い年になるようお互いに言いつつ、彼は「今日は歩いて帰ろうかなと思います」と言って渋谷駅に向かうわたしと反対方向へ歩いて行った。

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