20230205
快晴で気温もずいぶん上がった。このまま暖かくなってくれれば嬉しい。ダニエル・コーエン監督の仏映画『誰かの幸せ』を観た。モールのセレクトショップ店に勤める女性が空き時間にモールを行き交う人々を観察しながら書いた小説が出版社の目に留まり、瞬く間に大ヒットし、交際中の彼氏と親友夫婦のグループ交際の関係が変化していく過程を描く。アルミ素材を扱う交易会社に勤める仕事一筋の彼氏が昇進できずにへこんだり、幼馴染で文化的素養は自分の方が上だと思って主人公に嫉妬し続けるものの、マラソンにのめり込んでいく親友や、初めは音楽や彫刻に挑戦するも才能がなく、次第に料理にその生きがいを見出す親友の夫、と四人それぞれが自分の居場所を見つけ、それぞれを思いやっていく過程がユーモアたっぷりに進む良作だった。モール内の人物描写というと、先日芥川賞を受賞した井戸川射子『この世の喜びよ』を思い出す。いま読んでいる保坂和志『書きあぐねている人の小説入門』でも、小説における人を観察することの大切さが強調されていた。小説はなんだかんだで人間の物語であり、登場人物の魅力こそに人は惹きつけられる。当り前の話だが、テキストばかりに気を取られるとその当り前を簡単に見失ってしまう。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?