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日本語だからこそ生まれた、J-POPの王道「歌モノ」

はじめに

私は、ポピュラー音楽でいうなら日本の楽曲より欧米(主にアメリカ)のそれの方が好きだ。なぜなら、私は音楽を鑑賞する上でグルーヴやノリを重視していて(R&Bなどのいわゆる「横ノリ」の曲が好き)、洋楽ポップスの方が初めて聴いた時から自然と体が動いちゃうようなノリの良い曲が多いからだ。

洋楽ポップスがリズムやノリを重視している一方で、J-POPでは、昔からボーカルのメロディーライン、すなわち「歌」が重視されている。

(※「歌」を「ボーカルの発するメロディーラインと歌詞」、「曲」を「歌だけでなくバッキングトラックの音を含めた楽曲の全要素」という定義で話を進める。)

毎年大晦日に行われる国民的音楽番組の名称は「紅白『歌』合戦」であるし、「歌」を楽しむカラオケ文化を世界に広めたのは日本である。また、「音楽を聴くとき大事なのは『歌詞』?『(歌の)メロディー』?」といった「歌」を聴いている前提とした質問も、日本では定番のものである。

では、なぜJ-POPには「歌モノ」が多いのか。私はタイトルの通り、日本語という言語の特徴によるものだと考えている。今回は、それについて述べていきたいと思う。

J-POPと洋楽ポップスの違い ①日本 "マリーゴールド"

ここからは、J-POPと洋楽ポップスそれぞれの特徴について比較していきたい。

まずはJ-POP。ここでは大ヒットしたあいみょんの『マリーゴールド』を取り上げる。

日本に住んでいれば誰しも一度は聴いたことあるだろうし、もはやリンクを貼るまでもないだろう。

この曲の主役は歌であると言える。メロディーの暖かさや心地よさ、歌詞のノスタルジーや幸福感、視覚的に想起される色彩の鮮やかさが魅力なのではないかな、と思う。
そして、バッキングトラック(歌以外の音)の美しいメロディーや音色がそれらを引き立てるような働きをしている。

この歌とバッキングトラックの関係性が、日本のポピュラー音楽の特筆すべき特徴である。「歌の世界観をより忠実に、よりドラマティックに演出するためのバッキングトラック」という構造が、J-POPにおける「歌」の重要性を強調している。

実際私自身冒頭で洋楽の方が好きと言ったものの、幼い頃父の車でいつも流れていたミスチルや母の車で流れていたいきものがかりを聴いて育ったので、このような音楽はとても耳馴染みが良いし、聴き惚れてしまう。

J-POPと洋楽ポップスの違い ②欧米 "Rain On Me"

次に、洋楽について。先月リリースされたLADY GAGAのアルバム "Chromatica"のうち、Apple musicで世界で最も聴かれている曲のチャートである "Top 100 : Global"において最も高順位の7位を記録している(2020/06/14現在)"Rain On Me"を取り上げる。

この曲は、レディー・ガガとアリアナ・グランデという世界的に有名な歌姫二人によって歌唱されている曲である。

「歌」姫たちの曲であれば歌が強調されているに違いない、と思ってしまうが、実際に聴いてみるとJ-POPのような構造は見えてこない。
それを証拠に、曲の一番盛り上がるパートである0:47-1:49-では、歌が歌われていない。EDMの「ドロップ」のような形をとっている。

この曲において歌とバッキングトラックはそれぞれ独立している。歌はあくまで曲を構成する数ある要素の中の一つであり、極端に言えば一つのメロディーを担当する「楽器」に過ぎない(もちろん他の音よりは大きな存在感を示しているが)。そして、他の音によって曲のノリやグルーヴが作り出されている。

洋楽ポップスではリズムやグルーヴといった曲のノリに重きを置いていて、このような曲が多い。アメリカでヒップホップやラップがメインカルチャーと言えるほど流行っているのも、ノリを重要視していることの裏付けと言える。

日本語と英語の特徴

ここまでJ-POPと洋楽ポップスの違いについて述べてきたが、ここからは、それが起こった理由について記述していきたい。

私はこの音楽における文化の違いは、日本語と英語のそれぞれの言語の特徴の違いによって起こっている、と考えている。

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上の表のように、日本語と英語とでは発声法とアクセントのとり方が異なる。

まずは発声法について。日本語は胸式発声で喉から簡単に発することができる。しかし英語の母音は、息をお腹から吐かないと正しく発音できない。

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上の表に二つの具体的な単語を挙げた。日本語は喉の発声のみで構成されるので、英語での /h/,/p/,/θ/ などの喉から声を出さず(=声帯を動かさず)息だけを発する発音(=無声音)に注目すると、日本語との違いはより顕著である。

そして次に、アクセントについて。

日本語ではアクセントによって内容を強調するとき、該当の単語のピッチを高くする。テレビショッピングでおなじみのジャパネットたかた元社長である高田氏を想像すればわかりやすい。大げさな例ではあるが、日本語にはそういう性質がある。

対して英語は、息の強弱でアクセントをつける。

この動画は有名なキング牧師のスピーチである。聴いてわかるように、息を強く吐くことでアクセントを作っている。そしてそのようなアクセントによりリズミカルに聞こえることもある。

日本語と英語には以上のようなアクセントの違いがあるのだ。不思議なことのように感じるが、前述の発声法を踏まえれば理にかなっている。

息を吐いて話す言語では息を強く吐いて強調することが合理的であるし、そうでなく喉の調節で話す言語では喉を使ってピッチを高くして強調することが合理的であると言える。

一応言及しておくが、もちろん日本語では一切強弱の調節がされず英語では一切高低が調節されないわけではない。大きな傾向としての話である。

日本語のなめらかさと、メロディアスなJ-POP

では、そのような言語特性がなぜ音楽に違いを生むのか。

私は、日本語は強弱が少なく滑らかに発することができるのでメロディアスな楽曲が生まれやすい、すなわちメロディー重視の楽曲が生まれやすい、と考えている。

わかりやすい例として、日本が欧米の文化を取り入れる前の時代の「歌」である、百人一首について触れてみよう。

小倉百人一首は、平安時代末期から鎌倉時代初期にかけて活動した公家・藤原定家が選んだ秀歌撰である。(中略)定家は、飛鳥時代の天智天皇から鎌倉時代の順徳院まで、100人の歌人の優れた和歌を一首ずつ選び、年代順に色紙にしたためた。小倉百人一首が成立した年代は確定されていないが、13世紀の前半と推定される。(出典:『百人一首 - Wikipedia』 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%99%BE%E4%BA%BA%E4%B8%80%E9%A6%96 

百人一首は、このように滑らかに読み上げられる。前述の話を踏まえると、この歌い方は日本語らしい歌い方であると感じられないだろうか。

強弱をつける必要がなく、音程を変えながら滑らかに発声していくという手法が、日本語だからこそできる歌唱法であると考える。

現代のJ-POPでいうと、きゃりーぱみゅぱみゅやPerfumeがこの特徴を強く持っている。どちらも日本が誇る世界的なアーティストだ。

日本の音楽の強みは、「メロディアス」であることだろう。その旋律の美しさに多くの人が惹きつけられ、愛されている。

一方で、トラックメイクが歌のための演出としてのみ機能すると、曲自体の面白みに欠けてしまうという見方もできる。これが日本の音楽市場と欧米の音楽市場が交わりにくい理由の一つとして考えられる。
上記の2曲は、そういった日本の音楽の弱点を克服した曲たちと言えるだろう。

おわりに

以上が私が書きたかった「なぜJ-POPには『歌モノ』が多いか」という話である。

最後に、J-POPのメロディアスさと洋楽ポップスのようなノリの良さを兼ね備えている最高にイカしたバンド、みなさんご存知の「サカナクション」の一曲を載せて、締めたいと思う。
この記事はあくまでも個人的見解なので共感した人しなかった人様々であると思うが、共感できた人には、この曲にまた違ったカッコ良さが感じられるかもしれない。




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