「笑い」でポジティブ感情を増やし、パフォーマンスを上げる
週1回以上、声に出して笑うことが大事
私たちの脳は、ポジティブなことよりもネガティブなことに強く反応しやすいようです。なぜなら、人は進化の過程で、様々な外敵から身を守るために、ネガティブなイベントをいち早く察知し、それを未然に回避するように脳が発達したからで、これを「ネガティビティ・バイアス」といいます。
フランスの哲学者アランはその著書『幸福論』の中で、「悲観主義は気分だが、楽観主義は意志である」と述べています。この言葉からもわかるように、私たちは気分に任せていると、どうしてもネガティブな感情になりやすく、ポジティブな感情になるには、意志をもって自分をポジティブな感情に仕向けることが必要だと言えます。そこで、大事なのが、「笑い」です。
笑うと、身体に悪影響を及ぼす物質を攻撃してくれるリンパ球の一種の「ナチュラルキラー細胞(NK細胞)」の働きが活発になり、自律神経のうち、リラックスした時に働く、副交感神経が優位な状態になります。では、どのくらいの頻度で笑うことが大事なのでしょうか?
山形大学医学部による、40歳以上の日本人17,152人を対象にした研究(通称、「山形スタディ」)で、その答えが明らかになりました。この研究では、声に出して笑う頻度(週1回以上、月1回以上/週1回未満、月1回未満)に応じて、参加者を3群に分け、6年間、追跡調査しました。
6年間の追跡調査期間中に、257人が亡くなったのですが、分析すると、週1回以上、声に出して笑う人に対して、月1回未満の人は、死亡リスクが約2倍であることがわかりました。また、声に出して笑う回数が多い人は、喫煙率が低く、アルコール摂取量が少なく、運動の機会が多いことも明らかになりました。つまり、笑うことは他の健康行動にも関連する可能性があるようです。
作り笑いでも効果あり
週1回以上、声に出して笑うことが大事だとわかりましたが、そうそう笑うネタが見つからないという人に朗報です!実は、「作り笑顔」でも笑うことと同等の効果が期待できるという研究結果があるのです。
ドイツの神経心理学者ミュンテ博士らは、割り箸をくわえて、「作り笑顔」をつくったときの感情や脳への影響を実験で調査しました。下図の通り、割り箸を横にくわえると、表情筋の使い方が笑顔と同じになり、笑っているわけではありませんが、強制的に笑顔に似た表情になります。一方、割り箸を縦にくわえる(縦に唇ではさむ)と、沈鬱の面持ちになります。
ミュンテ博士らは、割り箸を横にくわえた参加者と、縦にくわえた参加者の脳波を計測しました。その結果、割り箸を横にくわえ、「作り笑顔」をつくった参加者は、ドーパミン系の神経活動に変化が生じ、全般的な幸福感が高まりました。つまり、実際に笑っていなくても、笑顔に似た表情をつくるだけで、ドーパミンが分泌され、楽しくなったと考えられます。
また、別の研究では、「作り笑顔」の状態と普通の表情の状態で、同じマンガを読んでもらい、その後、そのマンガの面白さを評価してもらいました。すると、「作り笑顔」の状態で読んだ方が、マンガをより面白いと評価することもわかりました。このように、「作り笑顔」には、気分を楽しくさせる効果が本当にありそうですね。気分が落ち込んでいる時こそ、「作り笑顔」の効果を試してみましょう。さらに、クリエイティブな思考になりたい時には、ポジティブ感情と活性度が大事になりますが、「笑い」や「作り笑顔」でポジティブ感情を高め、活性度を上げることで、クリエイティビティを高めることが可能になります。
「笑顔」でゴルフのスコアアップ ~ プロゴルファーの実践例 ~
「笑顔」がゴルフのパフォーマンスを上げた実例を1つご紹介します。10年ほど前の事例ですが、2012年の女子プロゴルフの国内大会で、当時、不調に苦しんでいた原江里菜選手が、ショット直前に「ニコッと笑う」というルーティンを取り入れたことで、見事に復調し、第2位の成績を収めたのです。当時(2012年7月17日付)の『週刊ゴルフダイジェスト』の記事を以下、引用します。
この原選手の「口角を上げると、パフォーマンスがアップする」というのは、まさに上述の「作り笑顔」の効果です。私も、順天堂大学医学部の小林弘幸先生と一緒に、実際にリアルタイムで原選手の自律神経を、ウェアラブルセンサを使って測定しましたが、口角を上げることで、体の余計な力が抜け、副交感神経が高まる様子を確認しました。
このように、「笑い」の効果は、ポジティブ感情を増やすだけに止まらず、アスリートやビジネスパーソンのパフォーマンスを向上させる効果や、クリエイティビティを高める効果も期待できますので、ぜひ、「笑い」、あるいは、「作り笑顔」を日常に取り入れていきましょう。
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