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クリエイティビティを上げる科学的だけど簡単行動(その2)

手軽にクリエイティビティを高めるために


働き方が大きく変わり、職場以外のコワーキングスペースやカフェなどで仕事をするケースも増えているのではないでしょうか。その時に気になるのが、仕事の生産性です。職場で集中して行う方が良い仕事もあれば、場所を変えて気分もリフレッシュして取り組んだ方が良い仕事もあります。特に、拡散的思考による新しいアイデアやちょっとした工夫が必要な仕事を行う時は、必ずしも職場(オフィス)がベストとは限りません。

スタートアップビジネスでは、基本的にルーチンワークはあまりありませんので、多かれ少なかれ、拡散的思考によるクリエイティビティはとても重要になります。私たちの脳はどうしても既存の枠組みや過去に経験したことをベースに思考してしまう強力な癖があるので、これをいかに打破するかが、クリエイティビティを発揮する鍵になります。

そのためには、いつもと違う環境に身を置いてみることも1つの方法ですし、ブレインストーミングなど、様々なフレームワークを駆使してアイデアをたくさん出せるようにするのも有効です。ここでは個人が手軽に実践でき、かつ、科学的エビデンスに基づく方法を2つほど紹介したいと思います。

最適な環境音がクリエイティビティを高める


カフェのような場所で仕事をする時、BGMやコーヒーを入れる音、人の話し声や外の環境音など様々な音を耳にすると思いますが、これらの環境音はクリエイティビティにどんな影響を与えるのでしょうか。

米イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校の研究者らは、環境音とクリエイティビティの関係を、60人の大学生を対象に調査しました。実験では、カフェでの人の話し声、交通音、遠くの工事現場の騒音などをブレンドして一般的な環境音を作り、そのノイズ・レベルを低・中・高(それぞれ、50dB、70dB、85dB程度)の3段階に分け、そのいずれかの条件に参加者を割り当てました。全ての参加者は、ヘッドフォンでいずれかの環境音を聞きながら、新しいマットレス商品のアイデアを考えるという課題に取り組みました。出たアイデアは、実験の背景を知らない2人の評価者によって厳格に評価されました。

その結果、適度な環境音(70dB程度)の参加者が、とても静かな環境音(50dB程度)や、ややうるさい環境音(85dB程度)の参加者よりも、創造性の高いアイデアを発案しました。

適度な環境音によって、参加者の思考が抽象化し、良い意味で現実から少し離れることができた結果より創造的な新しい商品のアイデアが浮かんだと考えられます。ややうるさい環境音の参加者は、高ノイズによって処理能力が低下し、思考の抽象化による良い効果が打ち消されてしまい、あまり創造的なアイデアを出せませんでした。また、静かすぎる環境は創造性が必要な仕事には最適ではないことも明らかになりました。ちょっとしたアイデアや工夫の必要な仕事に取り組む時は、適度な環境音のある場所で取り組んでみましょう。


整理整頓しないことがクリエイティビティを高める


雑然と散らかった部屋と整然と整理された部屋、どちらがクリエイティビティを高めるでしょうか。また、男女で差はあるのでしょうか。

米ミネソタ大学ビジネススクールのキャサリン・D・ヴォーズ博士らは、48人の参加者(大学生)を、整理整頓された部屋または散らかった部屋のどちらかに割り当て、そこでピンポン玉の新しい使い方を10個リストアップするという課題を与えました。リストアップされたアイデアは、実験の背景を知らない2人の評価者によって厳格に評価されました。

その結果、散らかった部屋の参加者の方が、クリエイティビティ(創造性)の評価が、整理整頓された部屋の参加者よりも、40%以上高かったのです。この傾向に男女差はありませんでした。

この理由ですが、整理整頓された環境にいる人は慣習や規律を重んじる傾向になり、散らかった環境にいる人は慣習や規律から解き放たれ、クリエイティビティを発揮しやすくなるようです。私たちはいかに環境の影響を受け易いかがわかります。

博報堂ケトル代表取締役の嶋浩一郎さんの書籍『嶋浩一郎のアイデアのつくり方』で紹介されている内容は、この研究結果とまさに一致します。そこには、以下のように書かれています。

『「情報は一度ラベルを貼ってフォルダに入れて片付けてしまうと死んでしまう!」(中略)もし、情報が放し飼いできれば、情報と情報の“想定外”の出会い=「化学変化」をプロデュースできるのです。今までない組み合わせから斬新なアイデアが生まれるわけです』

ロジカルに物事を整理したい時は、整理整頓も大事でしょうが、その前に広くアイデアを考えたい時は、あえて散らかった空間に身を置いてみましょう。思考内容によって、空間を使い分けることが大事ですね。

参考文献:
・Mehta, R., Zhu, R., & Cheema, A. (2012). Is noise always bad? Exploring the effects of ambient noise on creative cognition. Journal of Consumer Research, 39(4), 784-799.
・Vohs, K. D., Redden, J. P., & Rahinel, R. (2013). Physical order produces healthy choices, generosity, and conventionality, whereas disorder produces creativity. Psychological Science, 24(9), 1860-1867.
・嶋浩一郎.(2007).嶋浩一郎のアイデアのつくり方.ディスカバー・トゥエンティワン

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