天気と気分とクリエイティビティ
天気が良いと満足度が高い?
私たちの気分は、その日の天気の影響を少なからず受けることが研究でわかっています。
ドイツのハイデルベルク大学のノーバート・シュワルツ博士らは、天気と気分の関係について、興味深い実験を行いました。
シュワルツ博士らは、84人の参加者を対象に、天気の良い日と悪い日にそれぞれ電話インタビューを行い(1980年代前半の研究なので、インターネット普及前ですね)、その会話の中で、現在の「幸福度」と「生活の満足度」を尋ねたところ、天気の良い日に回答した人は、天気の悪い日に回答した人よりも、幸福度は約50%、生活の満足度は約35%高かったのです。
つまり、天気が悪い日は、回答者の気分も悪くなり、その気分を反映して、生活の満足度も低く評価されたと考えられます。
ところが、電話インタビューの最初に、「今日のそちらの天気はどうですか?」と尋ね、その日の天気に注意を向けさせると、結果は大きく変わったのです。天気に注意を向けると、回答者は、「幸福度」と「生活の満足度」の判断の際に、天気の影響を受けなくなったのです。
普段、私たちの気分は、天気以外にも様々な外部の影響を受けていると考えられますので、何かの判断をする際、自分の気分が何によってもたらされているかを少し意識することで、正しい判断につながると考えられます。
明るさと感情の関係
先述の通り、天気が良いと気分も良くなるという関係性が示唆されましたが、これは誰に対しても当てはまるかというと、そうではない可能性があります。というのも、明るい晴れの日には、うつ傾向のある人はより落ち込んでしまうという研究結果があるからです。これはどういうことでしょうか。
自殺の季節的傾向を包括的に調べたカナダのジョン・アボット・カレッジのサイモン・ケバン博士らの研究によると、自殺は日差しの強い晩春から夏にかけてピークに達し、冬場は最も少ないことが、80の研究のうち、60以上の研究で検証されています。
この研究によると、明るい光は、もともとポジティブな感情状態の人に対しては、ポジティブな感情を増幅させますが、もともとネガティブな感情状態の人に対しては、ネガティブな感情を増幅させてしまうようなのです。
つまり、うつ傾向でない人は、雨の日よりも晴れの日に幸福感が高く、うつ傾向の人は、晴れの日よりも雨の日に幸福感が高い傾向があるということになります。
うつ傾向の人は、雨の日には自分の否定的感情を悪天候のせいにできるのに対し、晴れの日には天候のせいにできず、自分のせいとしてしまうため、晴れの日の幸福感が低くなると考えられています。これはとても興味深い考察です。
天気を味方にクリエイティビティを高める
ここまで、天気と気分の関係を見てきましたが、最後にクリエイティビティを発揮するのに良い、「天気×気分」の組み合わせについて考えてみたいと思います。
このnoteでも以前に書いている通り、クリエイティビティを発揮するのにふさわしいのは、ポジティブな感情で活性度の高いときです(詳しくは、「クリエイティビティと気分の深い関係」をご参照ください)。
つまり、クリエイティブな発想に向くのは、順番に、
① 気分が落ち込んでいない、天気の良い日
② 気分がやや落ち込んでいる、雨の日
③ 気分が落ち込んでいない、雨の日
④ 気分が落ち込んでいる、晴れの日
となることが考えられます。
もちろん、気分が落ち込んでいても、何かのきっかけで気分が晴れれば、上記の④から①に変わることもあるでしょうから、例外は多々あると思います。また、②でも、気分の落ち込みによって活性度が低くなっている場合は、クリエイティブな発想には向かない状態なので、あくまでも、「やや落ち込んでいる」程度が目安になると考えられます。
例えば、②のような、気分がやや落ち込んでいる、雨の日には、普段じっくり考える時間が取れていないようなテーマについて、静かなカフェなどで、じっくり考えるのが良いのではないでしょうか。その時は、適度な音量(70dB程度)のBGMが流れているとさらに効果的です(詳しくは、「クリエイティビティを上げる科学的だけど簡単行動(その2)」をご参照ください)。
私の会社(WINフロンティア)は、順天堂大学医学部との研究で、スマートフォンのカメラで測定した日常生活における自律神経のビッグデータ(約20万人を対象)と天気との関連を分析した論文を発表していますが、雨の日ほど副交感神経機能が高まり、リラックスしている傾向がみられました。このことも加味すると、気分がやや落ち込んでいる、雨の日には、リラックスした状態でアイデアを練るのに良いと考えられます。
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