見出し画像

焚き火でコミュニケーションを深め、自律神経を整える

焚き火のあるライフスタイル


昔の日本の家屋には囲炉裏や火鉢があり、欧米では現在でも暖炉が一般的に使われており、火は私たち人間のコミュニケーションを促進する重要な要素として利用されてきました。

アフリカの部族のライフスタイルを174日間調査した、アメリカのユタ大学の文化人類学の研究では、アフリカの部族も日中の会話は経済的な問題や部族内のルール等についてのものがほとんどである一方で、夜は焚き火を囲んで、日中の緊張感から離れて、歌や踊りに興じるとともに、みんなが知っている人々についての魅惑的な物語を語って、親密度を高めることがわかりました。

また、近年は、キャンプブームが到来し、自然環境に五感を委ねながら、焚き火を囲んで、非日常を楽しむというライフスタイルも注目されています。さらには、こうしたアウトドアの環境をオフィスに持ち込んで、働きやすい空間を社員に提供する会社も増えています。

このように、焚き火のあるライフスタイルは住まいの中、アウトドア、オフィスと、多様な広がりを見せており、私たちの生活にプラスアルファの効果をもたらしてくれるようです。

次に、焚き火が私たちのコミュニケーションに与える効果について、興味深い研究をご紹介します。


焚き火がコミュニケーションを深める


焚き火が見知らぬ者同士の会話や親密度に与える影響について、日本の大阪ガス及び日本大学の研究者らは興味深い実験を行いました。実験では、面識のない女子大生1名と主婦1名を1組にして、計30人に焚き火(暖炉)のある部屋とない部屋で50分間会話をしてもらい、その後、主観の評価を行いました。

その結果、焚き火暖炉)のある部屋で会話をした組は、リラックス効果が高く、さらに、会話の相手が自分に似ていると感じられる度合いが高いこともわかりました。また、ビデオカメラでの観察結果によると、焚き火暖炉)のある部屋で会話をした組は、会話が進むにつれ、お互いうなずく回数が増えること、そして、会話が途切れる時間が減ることがわかりました。

特に、会話の最初の10分間での会話が途切れる時間が、焚き火(暖炉)のある部屋では有意に少ないことがわかり、焚き火(暖炉)の存在がコミュニケーションを深めるのに役立っていることがよくわかります。

さらに興味深いのが、会話する二人の距離の変化です。この実験では、見知らぬ二人が最初、200cm(2m)の距離を保って会話をスタートするのですが、50分間の会話後の二人の距離を測ると、焚き火(暖炉)なしの場合は、186.8cmだったのに対し、焚き火(暖炉)ありの場合は、168.8cmになりました。つまり、焚き火(暖炉)ありの場合は、なしの場合よりも、お互いの物理的距離が約10%縮まることがわかりました。

このように、焚き火暖炉)の近くで会話すると、相手との距離が近づき、より親密になれる可能性があることが、この研究で示唆されました。


炎を見つめる「トラタカ瞑想」の効果


焚き火の炎を見つめながら瞑想を行うことで、興味深い効果が得られることが研究で明らかになりつつあります。サンスクリット語で「凝視する」という意味の「トラタカ(Trataka)」に由来し、何か一点を見つめて意識を集中させるヨガの伝統的瞑想法を「トラタカ瞑想」といいます。

インドのバンガロールにあるヨガ研究大学(Swami Vivekananda Yoga Anusandhana Samsthana / S-VYASA)の研究者らは、この「トラタカ瞑想」が自律神経のバランスに与える影響を調査しました。

実験では、30人の男子大学生を2つのグループに分け、1つのグループは、1日目に「トラタカ瞑想」を15分間行い、2日目は、同じ15分間、ただ目を閉じてじっと座っていました。もう1つのグループは、逆の順序で、1日目は15分間、ただ目を閉じてじっと座り、2日目に15分間、「トラタカ瞑想」を行いました。そして、いずれも前後の自律神経の状態をデバイスで測定し、その変化を比較分析しました。

ちなみに、「トラタカ瞑想」のやり方の一例を下記に記載します。これを15~20分間で行う感じです。

1. 自然体でロウソクの炎を凝視する

2. 集中した状態でロウソクの炎を凝視する

3. 凝視の解除(視野を広げる)

4. 安静にして心を鎮める


1番目の「自然体でロウソクの炎を凝視する」では、まぶたの力をなるべく緩めて、自然体でぼーっと炎を見るようなイメージです。そして、2番目の「集中した状態でロウソクの炎を凝視する」では、ロウソクの芯の先端のただ一点に注意を集中し、凝視します。ずっと見ていると炎が揺れたり、炎のまわりが明るく見えたり、色々なことが見えてきます。それをただ感じることが大事です。その後、凝視を解除し、心を鎮めます。

解析の結果、「トラタカ瞑想」を15分間行った時だけ、自律神経の副交感神経(リラックス時に活性化する)が約30%も高まることがわかりました。また、心拍数は約5%、呼吸回数は約8%低下することもわかりました。

「トラタカ瞑想」はなるべく瞬きをせずに炎を見つめることに意識を向けることで集中しやすい状態になるため、不安や悲しみ、怒りといったネガティブな感情からも解放されやすくなるようです。

私の会社(WINフロンティア株式会社)では、オフィス内にキャンプ用のテントや焚き火(人工のもの)を設置し、快適な働く空間を提供している某IT企業のオフィス空間の効果測定をしたことがあります。

解析の結果、テントの中で焚き火をぼーっと見つめながら5分間ほど休憩をすると、休憩をしなかった場合よりも、その後の作業の効率が6%ほど向上する効果が見られました。また、自律神経の測定から導き出す集中度の指標も有意に向上する効果が見られました。

つまり、焚き火の炎を見つめてリラックスした後に、仕事に復帰すると、仕事の生産性が向上する可能性があるということですね。

以上をまとめると、焚き火のあるライフスタイルが広がっており、焚き火は私たちのコミュニケーションを深めてくれるとともに、焚き火の炎を見つめる「トラタカ瞑想」を取り入れると、自律神経が整い、仕事の生産性が向上する効果が期待できるということですね。

参考文献:
・Wiessner, P. W. (2014). Embers of society: Firelight talk among the Ju/’hoansi Bushmen. Proceedings of the National Academy of Sciences, 111(39), 14027-14035.
・松波晴人, & 羽生和紀. (2007). 火のある暮らしの効用研究: 暖炉によるコミュニケーション増進効果. 人間・環境学会誌, 10(1), 1-10.
・Raghavendra, B. R., & Ramamurthy, V. (2014). Changes in heart rate variability following yogic visual concentration (Trataka). Heart India, 2(1), 15.他

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?