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キャスティングはたのしくて、むずかしくて、たのしい。

 先日、十月に自劇団「獣の仕業」で上演する芝居のキャスティングを決定した。
 昔からキャスティングがとても苦手だ。
 あれもいいこれもいい、あっちもいいしこっちも捨てがたいと考えている内に考えが何周もしてしまって訳が分からなくなってしまう。どれもこれもいい感じでひとつを選ぶことができない。つまり、分からなくなるのは大抵座組の俳優さんの芝居がいいとき、特に、どんなタッチのお芝居も一通りできるような方達が揃っているときと決まっている。
 今回は、揃っていた。やはり死ぬほど迷った。もうこのまま何も決めずにあみだくじでも使ってしまえば楽になれるのにと何度か魔が差した。使わずに決められたのでまずは私の勝ちだ、ざまぁみろだ、悪魔め。

 前回以前の上演からの自分なりの違いとして、今回はキャスティングに悩んでいる要点や決めの途中経過を、すべて俳優たちには伝えることにした。

「今、AさんとBさんどちらを○○役と△△役にしようか迷っている。私は○○役に影を感じるので、似たものを持つAさんが似合う。また、△△役は主人公との対比を出したいから、主人公と手触りが違う芝居をするBさんがいい」
「□□役は、Cさんにはしないつもり。なぜなら前回の本公演からの挑戦を見たいからです」
「今、××役がDさんになる確率は30%くらい。なぜなら……」

 こんなような。
 いずれも、ひとつ前の本公演では伝えていなかったと思う。なんというか、ここまで理由を正直に隠すことなく語ることを、あえてしないでおいたのだ。
 今振り返ってみると、そういう赤裸々さは俳優を傷付けるのではないかと、きっと、潜在的に思っていたのだと思う。

「あなたの芝居のこういうところが好き」という称賛ならば、対俳優個人へのものだからと、臆面なくできる。けれどもキャスティングはその性質上、俳優同士の比較や選択から逃れられない。この役に誰かを選んだということは、その役に別の誰かを選ばなかった……、という消極的なニュアンスがどうしても含まれると私は、思い込んでいた。

 でも、と思った。そう思い込んでいるだけだったのだ。

 選ばない人を選ばなければいいのだ。俳優が一番魅力を発揮してもらえる選択を、きちんと、全員にすればいいだけだ。
 消去法で決断しないこと。
 俳優本人に言えないような理由では、なにひとつ決断しないこと。
 これを残らず全員に、徹底すること。

 そうルールを決めたらむしろ、どんどん俳優たちに伝えたいと思えた。というか今までもそうしてきたのだ。消去法で言えない理由で決めた経験などない。勝手にキャスティングにはそういう要素もあるかもしれないと思い込んでいただけ。なかった。自分は恵まれた演出家だったのだ。
 そう考えたら私は稽古場の退館時間まで、いつまでもキャスティングに悩む理由をベラベラと喋りまくっていた。俳優とは繊細なのにタフな生き物で、自分の話にきちんと付き合ってくれて喋り甲斐もなおさらだ。
 帰宅して横になると、いつものんびりとしか動かない自分の脳みそがグルグルと高速で回転しまくっているのが分かった。寝る前までキャスティングのことを考えた。頭の中が俳優たちの一挙手一投足のことで頭がいっぱいだった。ああ、どうしよう、また決められない。でも、このほうが、きっといい。
 私は正直に話すことができた。でも、それをどう受け取るかは、ひとりひとりの俳優が決めることだ。おまかせする。

 実は今回、俳優たちに「何の役がやりたいか」と希望を聞いた。
 これもこれまでの私であれば自ら積極的に希望を聞いたりはしなかったのだが、今回はその日の時点で未定要素があった俳優たちには「脚本を読んで、なにがやりたいか明日の午前中までに連絡をください。かならず理由を添えてください。私には、理由のほうが重要です」とリクエストをした。
 これ、キャスティングをしたことがある人なら分かってくれると思うのだが、希望を聞くのはかなり茨の道だ。全員の希望が叶えられる確率はかなり低い。本人の希望と他者が感じる魅力の違いは往々にしてあるし、やっぱり人気の役とそうでない役は分かれるもので、出番が多かったり、魅力的な台詞が多いなど、台本初見時点で魅力が伝わりやすい役には希望が集中したりする。

 希望を聞くこと。これはなかなか私には大きな決断だった。
 けれども、皆さんの書いてくれた理由がどれも素敵で、たまんない気持ちになってしまった。たまんない気持ちになってるだけじゃ、いけないんだけど、俳優たちの夢とか野望を聞かせてもらえるのは、なかなかに嬉しいものです。
 そういう「やりたい」「できる」「やってみたい」という本人が発した言葉は、意志決定者の決断に関わらず、人が何かをするときの力になると思う。

獣の仕業次回公演のお知らせ

獣の仕業 第十四回公演
マクベス [Tomorrow, and tomorrow, and tomorrow,]
2022年10月21日(金)〜10月23日(日)
会場:シアター・バビロンの流れのほとりにて
脚本:W・シェイクスピア 翻訳:坪内逍遥
脚色・演出:立夏

  • 21日(金)20:00

  • 22日(土)14:00,19:00

  • 23日(日)13:00,18:00

  • ※上演時間90~100分※

チケット予約フォーム

劇場観劇と、配信視聴でチケット予約窓口が異なっています。

劇場で見たい方

  • 劇場観劇チケット:2,500円

  • 紙脚本付き+劇場配信チケット:3,000円

  • ※上記フォーム内で券種を選択できます。

配信で見たい方(アーカイブ視聴)

出演

マクベス/Macbeth(武将)…小林龍二

マクベス夫人/Lady Macbeth(マクベスの妻)…雑賀玲衣
ダンカン/Duncan(スコットランド王)、ヘケート/Hecate(月と魔術の女神)…長瀬巧
バンクォー/Banquo(武将)…恩田純也 
マクダフ/Macduff(スコットランド貴族)…今村貴登
三人の魔女/Three Witches:
・第三の魔女/Third Witch、マルコム/Malcolm(王子、ダンカンの息子)…きえる
・第二の魔女/Second Witch、フリーアンス/Fleance(バンクォーの息子)…野崎涼子(salty rock)

第一の魔女/First Witchシートン/Seyton(マクベスの鎧持ち)…手塚優希

あらすじ・演出ノートなど詳細

感染症対策なども記載しています。

詳細は決まり次第noteやTwitter@kmn_chan_botでお知らせいたします。
Twitterでは公演関係者たちもおのおので #獣の仕業 #獣マクベス のハッシュタグで情報や稽古場の様子を投稿しています。ぜひご覧になってください。

獣マクベス公演関係者リストhttps://twitter.com/i/lists/1558797824996753408

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