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世も末談義。
K. M.の心の中の天使:
「お前には嫌いな言葉があるかい?」
K. M.の心の中の大天使:
「あるよ。『早い話が』」
天使:
「それは前にエッセイに書いたからもういいよ」
大天使:
「あと、『馬鹿な俺でも』」
天使:
「かなり具体的に顔を浮かべて言ってるなお前。まあ俺も嫌いだけど。一見自虐的なようで人一倍プライド高いのがバレバレだよな」
大天使:
「あとは――」
天使:
「もういいよ。止まらないだろ。そろそろ俺に聞いてくれよ」
大天使:
「なんだよ。言えよ。どんな言葉が嫌いなんだ」
天使:
「そんなに聞きたいか? じゃあ教えてやる。『世も末』って言葉さ」
大天使:
「ほう。なぜ」
天使:
「むやみに大仰な表現だと思わないか? 話者の思い上がりが透けて見える言葉でもある」
大天使:
「字義通りに読めば『世界の終わりだ!』という意味だから確かに大仰ではあるな。末法思想に由来する表現らしいし、厭世という名の感傷に浸っている感は否めない」
天使:
「そもそも釈迦の教えをろくに知らない現代人が遣う場合、せいぜい一個人が生きた数十年の範囲で旧来の文化・価値観が消失あるいは変質したことを嘆いているだけだろう。なぜその程度の些細な現実が世の終わりに繋がると言えるんだ? お前は神なのか? 思い上がりだよ」
大天使:
「しかし比喩や慣用句の類が大仰になりがちなのは仕方ないんじゃないか。『怒髪天を衝く』とか、ゴンさんじゃあるまいしと思うけどインパクトはあるからな」
天使:
「だから余計に癇に障るんだな。特に年輩者が遣うだろ、この言葉。下手に歳食ってこそ言える台詞だから遣いたくなるんだろうけど、未来ある若者の前で嘆き散らかして一体何がしたいのかね。人生に興醒めさせたいのかな。とにかく、まともな先達が口にする台詞じゃねえよ」
大天使:
「許してやれよ。本人にあまり未来がないんだから、あとは過去を美化するしか慰めがないんだろう」
天使:
「俺も同じことを思ってさ、念のためネットで調べたら同じこと書いてる人いたよ! 『末なのはあんた自身だけだろう』ってさ。全くその通りだよ。誰が死んだって世の中はまだまだ続いていくし、現代に生きる俺たちが想像もできないような価値観が出現する可能性はある。その上それが現代の価値観を真っ向から否定する内容で、かつ未来では美徳とされているかもしれないんだ」
大天使:
「そうだな。ただ、自分たちの信じているものが否定されたら、『自分たちの世は終わりだ』と言ってしまっても矛盾はないぞ」
天使:
「なるほど。自分が終わるのだから社会も終わればいいのに、と考える心理なら共感はともかく理解はできるな。道連れ願望だろ? 自分が〈末〉だから世にも〈末〉の烙印を押したくなるという」
大天使:
「これが中世あたりの人間だったら、たとえ自分の未来に希望がなくても、さっさと現世を諦めて来世だの死後の世界だのに期待する方向に心が動いたのかもな。その方が釈迦やキリストにとっても教えが残りやすくて良かったかもしれない。現代人は科学的に考えることに慣れ過ぎて、中世人と同じものを心の拠り所にできなくなったんだ。末法思想はいわば伝言ゲームの難しさを言い当てたのだろうけれど、人々が伝言ゲームに参加すらしなくなる未来をどの程度予測していたかな。現代人はみずから行く先にある拠り所を消し去って、郷愁に慰めを求めてるのかもしれない」
天使:
「そうか……。そう考えれば、世も末と嘆いている年輩者に少しだけ優しくなれそうだ」
大天使:
「でも年輩の人はお前みたいな若者が一番嫌いだと思う」
天使:
「俺もそう思う。どうでもいいけど」
大天使:
「ところで、嫌いな言葉じゃなくて好きな言葉を語ろうぜ。そういう談義の方がハッピーだよ。俺は "BORN AT THE RIGHT TIME" お前は?」
天使:
「もちろんあるよ」
大天使:
「良かった。教えてくれ」
天使:
「OPPAI」
大天使:
「え?」
天使:
「おっぱい」
大天使:
「……世も末だな」