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戦史

毎週、世界の古典を紐解き、感じたことを記していくシリーズ第4回はトゥキディデスの『戦史』です。

トゥキディデスは古代ギリシアの歴史家で、紀元前400年代にかけて当時の覇権国であったスパルタを中心とするペロポネソス同盟と新興国アテナイを中心とするデロス同盟の間で発生したペロポネソス戦争の経過を『戦史』として記し、残しました。

実際にトゥキディデスもペロポネソス戦争に将軍として加わり、どの様に戦争が発生し、全ギリシアを巻き込む大紛争へと発展していったのかを克明に記録したのがこの『戦史』となります。

当時のギリシア世界で最も大きな軍事力を持ち、覇権国家として強い影響力を持っていたのが、スパルタ教育でその名が知られるスパルタです。軍備増強の観点から子供は国の財産とみなされ、スパルタの男子は7歳になると親元を離れ、集団生活による軍事訓練が義務付けられ、その訓練は成人するまで続けられたそうです。

なお、余談ですが、スパルタでは代々、世襲制の2人の王が並立して存在し、共に執務にあたっていたそうですが、仲はそれほど良いものではなく、政策が一致することは多くないようでした。

代わって全市民参加の民会より選出される5人のエフェロイ(監督官)がその二人の王たちと共に政策に携わり、国家の運営にあたっていたとのことでした。

一方、スパルタと争う新興国のアテナイですが、こちらは海上交易によりギリシア一の経済都市として栄え、その繁栄と共に軍備拡張を進め、周辺の都市国家への影響力を強めていったという経緯がありました。

両者が徐々に摩擦を強め、周辺都市国家を巻き込みながら、勃発したペロポネソス戦争は約30年にわたって続き、最終的にスパルタの勝利で終わったのですが、このペロポネソス戦争の様な覇権国家と新興国家の対立は現代にいたるあらゆる歴史の場面で再現されています。

この覇権国家と新興国家の対立は「トゥキディデスの罠」とも呼ばれ、ハーバード大学の研究チームが過去500年間の同様の国家間の対立を調査したところ、実に75%が戦争を避けることができなかったとの事でした。

まさに「歴史は繰り返す」です。

現在、世界的な新型コロナウイルス感染拡大により、話題にあがることは少なくなりましたが、現代の覇権国家アメリカと新興国家中国の対立はトゥキディデスが記したペロポネソス戦争時の状況と非常に近いものがあると以前より耳にしてきました。

アフターコロナの世界を占う上でも、また、過去の教訓より学ぶ上でも、古代ギリシアの叡智より得るものは少なくないと感じてなりません。


「無知ほど恐ろしいものはない」ヘロドトス(歴史家)




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