取材されてみて分かった、取材ライターが絶対にしてはいけないこと
「あなたを取材させてください!」
『記者』や『ライター』と名乗る人にそう申し出られて自分の経験談を語ると、なんだか自分が凄い人になったような気分の良さを覚えます。
私は今まで、幸運にも四度、自分のキャリアについて取材を受ける経験に恵まれました。
この記事では、いま『取材する側(ライター)』を目指す私が『取材される側』として経験した、反面教師にしたいとても残念な思い出について書きたいと思います。
とても悲しかった経験
四度の経験のうち、私にとって忘れられない悲しい思い出は20代前半の海外駐在時に受けた新聞記事(全国紙)の取材でした。
私は当時、建設会社に勤めており、建設現場監督職としてとある東南アジアの島に駐在していました。
ちょうど海外の他のエリアで日本人駐在員が現地の紛争に巻き込まれるという非常にショッキングな事件があった頃で、『そんなご時世にも関わらず、海外に日本人を送り続けるガッツのある会社の紹介』といった内容で駐在先が取材を受けることになったのです。
当時同じ現場に日本人はベテランから新入社員まで40人ほどいましたが、選ばれたのは『ガッツ』の文脈に合うという理由で私を含めて若い世代の4名。
日本から飛行機を乗り継ぎ1日半かかる小島に、爽やかな30代半ばの新聞記者が来てくれて、30分ほどのインタビューを受けました。
慣れない文化の国で大変なことはあるか?海外で仕事をする上で気をつけていることはあるか?そんなよくある感じの質問を受けました。
そして数日が経ち日本でその取材記事が掲載された新聞が発行され、1日と経たないうちにfacebookのMessengerに知人友人から山程のメッセージが届きました。
「大丈夫?!?!」
「生きてるの?!?!」
そんな大げさな内容が多数届いて、私は文字通り目が点に。
そして事務所に出社して、日本の本社から届いた紙面のスキャンデータを読んで驚きました。
あの日記者に話した内容と、全然違っていたからです。
正確に言うと、話した内容自体はそこそこ合っているが、ニュアンスが全然違っていたのです。
「いや〜外仕事なので疲れますよ。毎日死んだように寝てます」と言った内容は「毎日死と隣り合わせで働いています」。
「まだ入社して日が浅いので、監督職とはいえど現地のワーカーからは中々リスペクトしてもらえませんねえ」と言った内容は、「日々、ナメられてるなと感じている。負けられない」。
そのような形でニュアンスが書き換えられて(誇張されて)いました。
その記事で書かれていたのは、死と隣り合わせの現場で歯を食いしばりながら戦うどこかの20代の女性社員であり、「私ではない誰か」だったのです。
悲しい経験が起きてしまった理由
4人がインタビューを受けた中で、記事では圧倒的に私の分量が多くなっていました。
ライターになる勉強をしはじめた今、その理由はよく分かります。
『海外に日本人を送り続けるガッツのある建設会社の紹介』というテーマの記事を書くときに、20代×女性という『ガッツ』や『建設会社』のイメージと相反するキャラクターは、意外性があり読者の興味を惹きつけるのに便利だったのでしょう。
実際に私の20代×女性という属性は、記事のタイトルにも使用されました。
そしてその意外性のあるキャラクターが危険な海外の地で死物狂いで戦うセンセーショナルな様子は、読者にとっては刺激的で思わず心配や応援の声を届けたくなるものに仕上がっていたと思います。
記事を読ませたいという新聞社側の狙いと、
記事を読んで感情を動かしたいという読者の希望が叶えられた内容でした。
しかしそれは、コンテンツ側(私)にとっては"真実ではない"記事でした。
(若手社員だったゆえに、取材された当事者の確認なしにオッケーを出した会社の責任も大いにあります)
ライター&社会人として今後気をつけたいこと
記事が公開されてしばらくの間、私は社内でちょっとした有名人になってしまいました。
日本に帰国して、一度も話したことのない人から「気の強い女」やら「生意気な新入社員」やらそんな言葉をかけられ傷ついたことも多々あります。
私の知らぬところで、私のキャラクターが勝手に作られてしまい、過ごしづらい時期がありました。
その記事は私の実名フルネームと年齢と写真つきで現在もオンライン上で公開されています。
結婚後も旧姓で働いているので、転職先でエゴサーチされるとすぐに見つかります。
記事は、書き手の商売道具(メシのタネ)であり、読者の心を動かすために書くもの。
しかし、その内容はコンテンツとして描かれる側にとっての"真実"でなれけばなりません。
コンテンツとなった側が考えていることや世に伝えたかったことが書き手と読み手の利益のために捻じ曲げられてしまった時点でその記事はフィクションだし、コンテンツ側に悪影響を与えてしまうこともあります。
真実を捻じ曲げられてしまった経験を持つ者として、自分がライターとなって取材する際には必ず『取材対象の方の真実が何か』を見極める力を持って臨みたいと思っています。
ライターや記者に限らず、誰か他の人が作ったものや経験を世の中に届けることを仕事にしている営業職やプロデュース職の方の参考になれば幸いです。
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