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kk(きまぐれ恋愛小説書き)
2024年7月31日 06:34
あれは会社にいるときの、少し気だるい午後のことだった。 まるで不意打ちを食らったかのように、彼女は突然やってきた。 少し近くのコンビニに行こうと、エレベーターの前で待っていた時のこと。「あの、すみません」「はい?」「今日、何月何日でしたっけ?」「え」思わぬ質問に、僕は少しぎょっとした。 おそらく何かの営業に来たのだろう。グレーのジャケットを着た、背の低い女性だった。少し太って見
2024年7月28日 23:22
「麗奈ちゃんとの結婚は考えてないのかよ?」横田がカルボナーラをフォークでくるくると巻きながら言った。横田は数少ない同期入社の一人だ。「考えてなくもないよ。このままいけばそうせざるを得ないというか。でも、なんだろう。麗奈には悪いけど、ほかに選択肢があるんじゃないかという気がして」僕は答えた。 僕と横田は社内の別の部署で働いているが、お昼休みになると(どちらかが会議や出張の予定が入っていない限
2024年7月26日 19:47
しばらくすると、雨は止み、ちょうど雨天が晴天に切り替わるように、テレビ番組が暗いニュースから明るいバラエティ番組に切り替わった。 よくある大食い系の番組で、名前も知らないダンスグループの男性アイドルと、若手のお笑い芸人、ギャルメイクの大食いタレントの三組が、イタリア料理のお店でマルゲリータ・ピザを何枚食べれるか競うというものだった。「うわぁ、大変そうだね」麗奈が少し顔をゆがめながら言った
2024年7月24日 04:22
ビールの酔いが回ってきたのか、雨が降りしきる中、ぼんやりと昔のことを考えていた。 僕は、今住んでいるところよりもっと田舎の、海が見える小さな港町で生まれ育った。 物心ついた時から父はいなくて、母と妹の沙彩と三人暮らしだった。だから僕は父親という存在を知らない。僕の中では、そもそも『家族』というのは母と子だけ、というのが当たり前だった。 母はスナック(『ホタテ貝』という店。由来は知らん
2024年7月22日 06:16
天気が悪い日は、胸の傷が痛む。特に、雨と晴れの間、いわゆる曇天と呼ばれるような天気の時には、ずきずきと体から音が響いてくるほどに傷が疼く。 その痛みは、たぶん、僕にしかわからない。良くも悪くも、それが先天的なものではなく、後天的にできた、とても特別なものであるからだ。 ふと、その傷口に手をやると、少し肉が削れて、物理的にその部分だけ凹んでいるのがわかる。そして、それが間違いなく、僕の体の一部