見出し画像

それって粋か?

The Economistからのメールはいつも面白い。

今朝のは編集長自らが今週号の表紙写真をどうやって決めたか語る裏話。

 Cover Story, an e-mail from The Economist, Oct 14th, 2023

表紙が大事なのはいつものこと。でも今週ほど重要なのはめったにない。ハマスのテロリストが1,300人のイスラエル人を殺戮し、その多くが女性や子どもだった。

さすが編集長、読ませます。

最初に候補に上がったのがこれ。

タイトルほか、文字はダミーで入っているだけです

これは「世界が変わった瞬間」を表す写真。10月7日、一台のブルドーザーがイスラエルとガザを隔てるセキュリティ・フェンスを壊している。その後ハマスの兵士たちがイスラエル南部へなだれ込んだ。

ただ、これは採用されなかった。

「うちらが報道すべきは『これからどうなる』であり、ブルドーザーは重要、確かにそうなんだが、済んだ話じゃねーか」

これならどうよ。

悪かねえが、俺たちヨーロッパで18か月も戦争見てきて、こういう画はそれこそいやんなるほど目にしてきた。それとどこが違うってんだい。

シルエットがいい。兵士でありながら、哀愁を感じる。喪に服すイメージも感じるじゃねえか。
だけど、でかいのと小さい三人という対比が気になる。

どっちがパレスチナで、どっちがイスラエルなんだ? なんて勘ぐりが出てきたらめんどくさいぜ。

人に焦点当てるってのはどうだ? この写真はガザの子どもたち。頭上に舞うイスラエルの軍機やヘリコプター見上げてる。

220万人が逃げるに逃げられず、動くのもままならず、こうしてる。

わかるが、でも、これ、イスラエルも同じだぜ。かたっぽうだけの写真じゃ目覚めが悪い。

こうして、これも;

これも;

ボツになった。

そして最後、決定したのが、これ。

Agonyってのは身体的だけではなく精神的苦痛を表す。もう、なんか、疲れちまったぜ、という空気感、雰囲気が表紙全体から伝わる。

見事な編集長の筆により、世界一の情報誌『エコノミスト』がどうやってカバーストーリーを作成するのか、追体験できた。

ここで思い出すのが、浅田次郎『天切り松闇がたり』シリーズだ。浅田さんは、何も昔話を書きたいわけじゃない。現代日本に失われた「粋」を伝えたいんだ。

「文章の書き方」講座指定図書です

DX(デジタル・トランスフォーメーション)だか働き方改革だかビズリーチだか提灯だかひょっとこだか知らねーが、それって粋か?

新大阪駅で駅弁買ったら「袋どうしますか? 有料ですが」ってハダカで持ってホーム行けってか。旅の思い出を店に陳列したやつそのまま持たせて、それでいいのかい。袋代欲しけりゃ最初っから弁当の価格に乗せとけ。

粋じゃないんだよ。

住みにくーい、生きづらい日本になっちまった。

振り子は一方に振れたら、必ず元に戻る。

これが中庸ってやつで。

中庸は、アタマで読んじゃダメ。感じるものだ。
そして、現代日本は感じることが少なくなった。

エコノミスト編集長の文章を読んでると、表紙写真を選ぶのに、最後のさいごは、写真から感じ取れる「本日ただいまの苦悩」だとわかる。これこそが、知性だ。

feel

を大切にしよう。そう思った。
そして「それって粋か?」も。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?