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感性:日常に新鮮を感じられるのなら

旅行でパリとローマを訪れた。私にとっては10年以上ぶりの日本以外の先進国旅行であった。

学生の時にいくつかの国を旅行して、途上国の方が色々な面で日本とのギャップが大きく面白かった。貧乏学生には物価の安い国の方が気楽であったというのもあったのだろう。途上国ならではの苦労も多いが、それもまた旅の醍醐味として捉えていた。それ以降、旅行はもっぱら途上国であった。

しかし、久しぶりの先進国旅行は思いのほか面白かった。それは、街並が美しいとか、食事が美味しいから、というだけの理由ではない。

商店に陳列された食品に清潔感が漂っていたり、危険な犯罪に巻き込まれる心配をせずに街を出歩くことができたり、喫茶店で頼んだ珈琲がインスタントでなかったり、それだけのことで高揚感を覚えた。そして、どこに行ってもトイレが綺麗だった。そんな日本人にとっては当たり前のことに一々感動できる自分が面白かった。

自分が学生の時にパリやローマを訪れてもこんな感動はしなかったと思う。社会人になり、幅広い経験を重ねた結果、様々な視点で街を見られたのだろう。例えば昔は商店に並ぶ冷凍パスタを見ても、その加工技術の高さや整備された物流網に感動できなかっただろう。

この旅行を通じ、環境や経験が自分の感性に大きく影響を与えていたことに気付いた。そしてこれは旅行に限ったことではないかもしれないとも思った。昔途中で投げ出してしまった小説も今なら興味深く読めるかもしれない。昔は苦手であった人からも今なら楽しく話を聞けるかもしれない。

過去の記憶によって作り出された固定観念のために、今触れてみると実は面白いかもしれないものを自ら排除してしまうのは損だ。これからは少し自分の思い込みや先入観を疑いながら、自分の人生から切り捨てようとしていたものを再度拾い集めてみたい

真鍋希代嗣(イラク在住)

※この文章はワシントンDC開発フォーラムに2014年3月に寄稿したエッセイ「感性」を転記したものです

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