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【読書感想文】LIFE SCIENCE

「LIFE SCIENCE」を読みました。久々、哲学以外の本。

科学的思考法を身につけるには?

僕自身は、エセ科学に騙されないようにする、とか、科学が関係するニュースを鵜呑みにせずに自分なりに解釈することを、すごく大事なことだと考えています。

そして、そのためには「科学的思考」を身につけることが大事。そして、「科学的思考」とは、「それって本当?」という疑問をもって物事をみつめて、判断の根拠を探る態度のこと。因果関係と相関関係が違うことにも注意しよう、とか、仮説と検証はセットだよね、とか、論理的につながっているか?という視点をもつこと。

これは本書の第一章で語られることであり、強く共感します。

しかし、最近こんなことを考えていました。

「僕自身は、何かがエセ科学かどうかを判断するときに、直感でわかっているのではないか?」

つまり、因果関係か相関関係か、とか、根拠は?とかを精緻に検証する前に、だいたい、直感で、これは怪しそう。と値踏みしちゃっているんです。(そしてほぼ当たります。これは、偉そうにいいたいわけではなくて、自然科学の研究者だと、だいたい、そういう直感が働いているんじゃないかと思います)
そして、人に説明するため、とか、本当は正しいのでは?、を確認するために、上記の「科学的思考」をチェックリスト的に使っているような気がしています。

つまり、「これはエセ科学だ!」と科学者がわかっちゃうことと、それを人に説明して、わかってもらうこと、というのは、似ているようで、微妙に違うプロセスなんだよなあ、というのを感じていました。たぶん、無意識のうちに、頭の中のチェックリストを働かせて、ぴゃぴゃっと判断しているんだろうから、限りなく近いプロセスを経ているんだろうとは思うけど、微妙に違う。これは、「エセ科学に騙されない」という消極的な場面に限らず、何かの意思決定を科学的に行う、という場面にも、当てはまることだと思います。

たとえるなら、バットを振ってボールに当てられる、ということと、どういうふうにバットを振るとボールに当てられるのかを説明できるのは、別物である、くらいの違いかもしれません。(身体動作がともなうものでたとえるのはなんか違う気もするけれど・・・)

だから、僕が〇〇がいかに信じられないか、を誰かに解説することは、誰かがエセ科学に騙されないことを助けることになるんだろうか?と感じていました。

じゃあ、僕自身、どうやって判断できるようになったか、というと、おそらく、それは大学や企業での最前線での研究活動を通して、だと思います。

「科学的思考を要素に分解して説明するとこうなるけれど、それを実際使える形で身につけるには、科学の研究開発の現場に身を置くしかない」というのは、自分でいいながら、随分身も蓋もない話に感じます。

そのために、本書は研究の追体験を提供している

じゃあ、どうするか?というところで、本書は、2章、3章で生命科学の概略を示した後に第4章、第5章では、吉森教授ご自身の研究を引きながら、「オートファジー」の研究について紹介してくれています。

多くの人が、科学の研究開発の現場に身を置くことは難しいかもしれないけれど、それを本で追体験することはできる、というわけです。

吉森教授はこの本の執筆をアウトリーチ活動(研究者が研究者以外の人に対して、研究について広報する活動のこと)と位置づけて取り組まれているようで、ご自身の研究について、その周辺を取り上げながら、めちゃくちゃわかりやすく、解説してくださっているわけですが、本書に特徴的なのが、研究結果を記載するだけでなくて、研究のプロセスから書いてくれているところです。

すなわち、課題を設定して仮設を立てて、どのように検証していったのか、そしてそれがわかることでどんな嬉しいことがあるのか、ということを開示しているのです。

しかも、「ここから先はまだ論文になっていないから書けない」という記載があるほど、本当に最先端の研究についても書かれている。

そのため、この本を読むと、吉森教授の研究を追体験することができるのです。僕が冒頭で問題意識を感じていた「研究の現場に身を置かないと科学的思考は身につかないのでは?」という懸念に対する解がこれなんだ、と感じました。

(なんでこの立て付けで、論文の引用が記載されていないのかは、ちょっと僕にはわからなかったが・・・)

オートファジーのこともちょっとだけ

2016年に大隅教授がノーベル賞を受賞した、「オートファジー」、正直僕はこの本を読むまでちゃんと知りませんでした。

「オートファジー」が面白いのが、物質を指すことばではなくて、「仕組み」全体を指す言葉だ、ということです。英語のwikipediaでは「mechanism」だ、と書かれている。

だから、生物から何かを切り出してきて(動かない状態で)観察するだけでは、オートファジーを完全に理解することはできず、この分野が発展するには、一連の仕組みがどう働いているのか、をつぶさに観察することのできる電子顕微鏡が発展する必要があったんだなあ、というのが面白かった。

ノーベル賞を受賞した研究だけあって、今は解説の動画や記事がたくさんあって、本書に限らず、知識を得るのがすごくはかどりました。


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